7月12日に開催された中央社会保険医療協議会・総会において、
高齢化の進展により在宅医療や訪問看護などのニーズが急増していく中で、在宅医療等の質・量双方の充実が急務とされ、診療報酬でも対応を検討していく。その際「かかりつけ医機能を持つ医療機関による在宅医療」と「在宅専門医療機関等による在宅医療」とが、連携し、補完しあうような関係構築を目指していくべきではないか。
訪問看護、とりわけ精神疾患患者への訪問看護が増加し、訪問看護ステーションでも対応を強化しているが、現場看護職員の身体的・精神的負担が大きく、事業所間連携や業務負担軽減を可能とする報酬上の手当てが必要となっている。
訪問栄養指導の重要性が増しており、地域の栄養ケア・ステーションと、医療機関・訪問看護ステーション等との連携をこれまで以上に強化していく必要がある。
このような議論(「
在宅その1」論議)が行われました。
※在宅(その1)参考資料
高齢化が進展する中で「在宅医療等のニーズ」は2040年度まで増加していくことが確実であり、こうしたニーズに的確に対応するために、「在宅医療等の質・量双方の充実」が昨今の診療報酬改定ポイントの1つとなっています。
厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長が提示した資料からは、「地域によってバラつきがあるものの、在宅療養患者に対する指導管理を包括評価する在宅時医学総合管理料や施設入居時等医学総合管理料、実際の在宅医療提供を評価する在宅医療訪問診療(計画的な在宅医療提供を評価)、往診(緊急時の在宅医療提供を評価)、特別な疾患・状態で在宅療養する患者への対応評価を行う報酬(ターミナルケア加算、看取り加算、在宅がん医療総合診療料など)について、算定件数が増加してきている」状況が確認されており、「質・量双方の充実」が進んでいることが伺えます(もっとも「平素より計画的な訪問診療を強化し、緊急対応である往診を減らすべき」などの指摘もある)。
後者の「量の充実」に関しては、「在宅医療に積極的に対応する在宅療養支援診療所などの整備を進める」方策とあわせて、「一般の医療機関でも在宅医療等に少しずつ対応してもらう」ことが重視されてきています。「体制面などから在宅医療にそれほど力を入れることは難しいが、可能な範囲で在宅医療を行う」医療機関に期待するものです。
具体的には、例えば、「在支診以外の診療所」、つまり「在宅医療にとりわけ力を入れているわけではない」クリニックが、自院のかかりつけ患者が在宅医療が必要となった場合に他医療機関と連携等して24時間の往診・連絡体制を構築することを評価する【継続診療加算】を2018年度改定で新設し、2022年度の前回改定で【在宅療養移行加算】に発展的改組する(市町村や地域医師会との協力により往診が必要な患者に対し、自院・連携医療機関が往診を提供する体制を持つことも併せて評価する)在宅医療を提供する医療機関と、かかりつけ医療機関とが共同して指導管理を行うことを評価する【外来在宅共同指導料】を2023年度の前回改定で創設するなどの対応が図られています。
しかし、こうした新設点数の活用はまだまだ十分とは言えません。前者の在宅療養移行加算は450医療機関(加算I:72、加算II:378)で1か月当たり4000件程度(加算I:2837、加算II:1200)の算定にとどまり、後者の外来共同指導料にいたっては50医療機関弱(在宅医療機関を評価する指導料1:26、かかりつけ医医療機関を評価する指導料2:23)にとどまっています。今後、背景をより詳しく分析し、テコ入れ策を検討することになると想定されます。
また、在宅医療に関しては医療提供体制のみならず、地域の高齢化の状況、居住の状況(住人が密集して住んでいるか、離れたところに住んでいるか)等により大きな違いがあり、「一律の論じる」ことは非常に困難です。都市部では比較的効率的な在宅医療提供が可能ですが、地方では移動時間が大きく、在宅医療を効率的に行うことが困難です。また都市部でも、戸建て住居が多い地域と、高層マンションが多い地域では、「上下移動時間」などの差もあり、考慮すべき要素が多岐にわたります。
こうした状況を踏まえ、2024年度からの第8次医療計画に向けて、在宅医療に関しては、
適切な医療圏を設定する(在宅介護との連携が重要となり「市町村」を圏域とすることが重視される)、
圏域ごとに「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病など)、「在宅医療に必要な連携を担う拠点」(市町村、医師会など)を適切に整備する、
在宅医療・介護連携をさらに推進する、
在宅療養患者が急変した場合の対応、看取り対応をさらに強化する、
災害時にも在宅医療提供を継続できるよう、BCP作成を進める、
などの方針が固められています。
今後、こうした状況を踏まえながら「在宅医療等の質・量双方の充実」をさらに診療報酬で後押ししていくことになります。
この点について診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「今後、2040年に向けてさらに在宅医療等のニーズが高まる中、『患者が希望する場所で看取りが行える』ように、報酬面でも適切な対応を行うべきである。その際にはICTを活用した情報連携(在宅医療・介護提供者は主体が異なるため、医療機関・訪問看護ステーション・介護事業所などの情報連携が難しくなる)、病診連携(後方病床の確保が在宅療養を可能とする)、多機関・多職種が連携した24時間・365日体制の確保などが重要ポイントになる」旨を強調。また同じく診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「地域における平時の水平連携(在宅医療を行う医療機関同士や訪問看護ステーションとの連携など)、有事(新興感染症拡大時など)の垂直連携(在宅医療を行う医療機関と大規模病院との連携など)が極めて重要になる。その際には、地域ごとに現状を把握して課題を整理、それに対応する方策を打ち立てて実行し、効果を評価して、さらに改善につなげていくというPDCAサイクルを回していくことが必要となる」とコメントしています。
かかりつけ医と在宅専門医療機関とが連携し、補完しあう関係構築に期待がかかる
また、同じく診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は、在宅医療提供主体として、大きく、
かかりつけ機能を持つ医療機関
在宅医療専門に行う医療機関
いわゆるメガ在宅医療機関
の3つが考えられるとしたうえで、「かかりつけ医療機関による対応が望ましいと個人的には考えるが、1人開業医などの場合には24時間・365日対応が困難である。その場合、在宅専門医療機関などに委ねた際に、そこで『かかりつけ医療機関との関係』が切れてしまうことがある。例えば『平素はかかりつけ医療機関が対応するが、週末や休日はの在宅専門医療機関等が補完的に対応する』などの連携体制が組めないか、考えていく必要がある」と提案しました。
あわせて池端委員は、上述した地域差に関連し「地方では、移動時間も長く、効率的な在宅医療提供が行えないことから、在宅専門医療機関等が成り立たない」ことを指摘。その場合の補完体制として「地域包括ケア病棟を持つ病院」などに期待を寄せています。地域包括ケア病棟には「在宅医療提供実績」も求められ、2022年度の前回改定で「より積極的に在宅医療提供を行うよう、基準の厳格化」も行われています。今後、2022年度改定の効果(地域包括ケア病棟における在宅医療提供の実績)等も踏まえて、在宅医療等の報酬改定論議を煮詰めていくことになります。
他方、支払側委員は「在宅医療等に関する地域差」の要因を分析するよう要請したほか
かかりつけ医機能を持つ医療機関による在宅医療等提供等、
後方病床による在宅医療支援機能に関する対応、
限られた医療資源の有効活用に向けた「往診」の適正化(通院可能な者は外来受診を行う)、
実効性のあるACP(Advanced Care Planning:人生の最終段階で自分が受けたい医療ケア、受けたくない医療ケアを専門家や家族等と何度も話し合い、可能であれば文書にしておく取り組み)の推進(形だけでのACP作成では意味がない)、
などが重要論点になるとの考えが松本真人委員(健康保険組合連合会理事)から示されています。
精神疾患患者への訪問看護ニーズが増大、現場看護師の負担にも配慮して充実を図るべき
また、在宅療養患者には「訪問看護」提供が極めて重要となります。眞鍋医療課長は、訪問看護について
大規模化・機能強化型が進んでいる(これにより重度者に対し、24時間・365日対応が可能になってくる)
「精神および行動の障害」患者が増加している
小児患者も増加している医療を提供する医療機関
一部に超高額な訪問看護レセプトとなる患者が存在している(極めて頻回な訪問看護が必要な重度者(難病患者)が利用している)
精神科訪問看護の需要が増加し、実績も増えており、一部に「機能強化型以外で精神科に特化した訪問看護ステーションがある
同一建物居住者に対する訪問看護、複数名による訪問看護などが増加している
夜間・早朝、深夜における訪問看護や緊急訪問看護が増加している
退院日当日の訪問看護は増加している(別表8の重度者とりわけ増加)
などの状況を報告しました。
訪問看護のニーズ増に現場が相当程度対応しており、「さならる訪問看護体制の充実」を図っていく必要性が伺えます。
この点については、吉川久美子専門委員(日本看護協会常任理事)から「24時間・365日対応が拡大してきているが、その分、現場看護師の身体的・肉体的負担が増加しており、労働環境の改善、事業所間の連携強化に向けた対応(訪問看護療養費などの引き上げ)が必要である」「特別養護老人ホームなどの入所者に、柔軟に訪問看護提供できる仕組みを同時改定で考えるべき」「精神疾患に対しては、当該患者はもちろん、家族全体への支援が必要となるケースが少なくなく、現在でも『制度(医療、介護、福祉)の枠を超えた訪問看護サービス』提供を現場で行っている。そうした機能に見合った診療報酬上の評価を検討してほしい」との要望が出されています。
栄養ケア・ステーションと医療機関・訪問看護ステーションとの連携強化の推進
さらに、在宅療養患者では「栄養面での指導管理」も非常に重要となります。入院患者であれば、状態に見合った食事が定期的に提供され、摂取状態も医療従事者がチェックを行いますが、在宅患者ではそうはいかず、「栄養面が不十分なために、傷病治療やリハビリの効果が思うように上がらない」といった問題もあります。
このため「管理栄養士による訪問」が注目され、【在宅患者訪問栄養食事指導料】の算定も伸びてきていますが、「そもそもの訪問回数が、他の医療従事者による訪問指導などに比べて極めて低い」のが実際です。
この点については、診療側の池端委員や支払側の松本委員が「地域の栄養ケア・ステーションに所属する栄養士と、在宅医療を提供するクリニック等が密接に連携し、十分な訪問栄養指導を行える体制」を整えていくことが必要と強調しています。すでに診療報酬上は、クリニックと栄養ケア・ステーションが連携した場合の評価(在宅患者訪問栄養食事指導料2)が設けられていますが、「クリニックとステーションとの契約や手続き等で支障がでていないか」を確認していく必要がありそうです。
眞鍋医療課長によれば、栄養ケア・ステーションは全国で110か所設置され、4000名を超える管理栄養士が所属しています。地域の在宅医療を行う医療機関や訪問看護ステーションなどとこれまで以上に密接に連携し、「多職種による総合的な在宅医療提供」が進むことに期待が集まります。