新年度を迎え、あらためてベースアップ評価料を再確認
2025年も4月となり、早くも新年度を迎えました。
新年度になると新たな従業員が入職してくる医療機関も少なくはないでしょう。
2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の賃金改善のための診療報酬として「ベースアップ評価料」が新設されました。2024年度に続き2025年度も当該評価料を活用して、賃金の引き上げを計画している場合には厚生局へ届出が必要とされています。
そこで本コラムでは、新年度に向けたベースアップ評価料に算定に関して、解説していきます。
〈ベースアップ評価料とは?〉
2024年の診療報酬改定で新設された「ベースアップ評価料」は、医療従事者の賃金引き上げを目的とした診療報酬です。新設された背景には、食材料費や光熱費などの物価高騰への対応に加え、コロナ禍を経て日本全体で賃上げの機運が高まる中、医療従事者の賃金水準の低さが課題として浮き彫りになったことがあります。特に他業界との賃金格差は、医療機関での人材確保を困難にしていることが考えられます。そこで医療機関は、このベースアップ評価料を活用して賃金改善を図り、人材確保につなげることが期待されています。
〈対象となる医療従事者〉
ベースアップ評価料の対象となるのは、医療機関で働く一定の職種の医療従事者です。ただし、医師・歯科医師や、医療事務スタッフ(医師事務作業補助者や看護補助者が医療を専門とする職員の補助として行う事務作業を除く)は対象外となっています。
具体的には、
・看護師
・准看護師
・薬剤師
・診療放射線技師
・臨床検査技師
・理学療法士
・作業療法士
・言語聴覚士
・介護福祉士 など
これらの職種が対象となります。これにより、直接的な医療行為や患者ケアに関わる職種の賃金が改善し、医療機関の職員定着率の向上にも寄与することが期待されています。
〈ベースアップ評価料の種類と取得要件〉
ベースアップ評価料には、主に3つあります。
①外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)
②外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)(無床診療所のみ)
③入院ベースアップ評価料(入院・有床診療所のみ)
これらの評価料を算定するためには、2024年度および2025年度に対象職員の賃金を改善する必要があり、評価料の収益は賃金の引き上げや賞与、時間外手当、法定福利費などに充当しなければなりません。
また、給与改善の具体的な内容については、各医療機関での経営状況や賃金体系に応じて異なりますが、原則、基本給又は月次支払いの手当として反映させることが求められます。
〈ベースアップ評価料の算定の流れ〉
※具体例として病院の場合
①対象職員の給与総額を計算
202X年X月から202X年X月に実際に支払った給与総額をもとに算出
②外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の算定見込みを計算
202X年X月から202X年X月における初診料や再診料の算定回数をもとに見込みを算出
③入院ベースアップ評価料の算定見込みを計算
202X年X月から202X年X月の延べ入院患者数をもとに、算定区分(1~165種類)を決定
④医療従事者の賃上げ見込みの計算
厚生労働省の「ベースアップ評価料計算支援ツール(医科)」を使用
〈届出と報告書の提出〉
ベースアップ評価料を取得するためには、施設基準の届出に加え、以下の2点を地方厚生(支)局へ提出する必要があります。
(2025年度も引き続き提出が必要となります)
・賃金改善計画書(6月提出)
ベースアップ評価料を届出した医療機関は前年の実績をもとに、2024年度に2023年度比で2.5%以上、2025年度に4.5%以上を目安に引上げとつながるように賃金改善計画書の作成が求められています。また、新年度を迎えるにあたって計画書は4月に作成し、6月末までに厚生局に提出するようになっています。
・賃金改善実績報告書(8月提出)
これらの書類では、ベースアップ評価料による賃金引き上げの状況だけでなく、自主財源を含めた全体的な賃金改善の状況も報告しなければなりません。
さらに、提出時には、給与支給状況を示す証拠書類(給与明細や賃金台帳など)の添付が求められる場合もあるため、事前の準備が重要です。
〈定期的な届出の必要性〉
入院ベースアップ評価料(および外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ))については、毎年3月・6月・9月・12月に新たに算定し、区分変更がある場合は月内に地方厚生(支)局へ届出を行う必要があります。ただし、前回届出時点と比較して1割以内の変動であれば、届出は不要となります。
〈まとめ〉
近年、医療業界では人材不足が課題となっています。こうした状況の中で、医療従事者の待遇改善は喫緊の課題であり、安定した人材確保のためには従業員の賃金の引き上げも不可欠です。ベースアップ評価料は、医療機関が職員の賃金を一定以上引き上げた場合に算定できる診療報酬であり、医療従事者の待遇向上と働きやすい環境の整備に向けた施策です。従業員の給与の改善がモチベーション維持へとつながり、結果として患者への対応や医療サービスの向上など医療の質の向上にも寄与することが期待できます。
今後の診療報酬改定の動向や、ベースアップ評価料の適用範囲・要件の変化を把握することも重要です。厚生労働省のガイドラインや計算支援ツールを活用し、制度を適切に運用することで、スムーズな算定を目指すとともに、医療従事者が安心して働ける環境を整備していくことが求められます。
2025年1月 医療総研株式会社 代表 伊 藤 哲 雄
2025年1月 医療総研株式会社 代表 伊 藤 哲 雄
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2025年1月 医療総研株式会社 代表 伊 藤 哲 雄