財政制度分科会では、
「医療費や介護費の伸びを我々国民の負担できる
水準に抑える」方策の検討を進めています。
■医療保険制度の持続可能性の確保
国民医療費は過去10年間で平均2.4%/年の
ペースで増加しています。
このうち、高齢化等の要因による増加は
平均1.1%/年であり、残りの半分程度は
人口増減や高齢化の影響とは関係のない
要素によるものとなっています。
日本の医療保険制度を支えている財源は、
公費と保険料と自己負担であるが、
・公費については、
既に国債発行に大きく依存し、
将来世代につけ回しを行っている
(給付と負担のバランスが損なわれている)状態
・保険料は年々上昇し、急速に減少していく
現役世代に大きな負担
(可処分所得を大きく引下げ)
・自己負担については、
高額療養費制度の影響もあり
実効負担率は年々低下傾向
となっています。
こうした中で、世界に冠たる医療保険制度を
どのように改革し持続可能なものとしていく
かが重要な課題となっています。
11月1日分科会では「医療」に焦点を合わせ、
(1)保険給付範囲の在り方の見直し
(2)保険給付の効率的な提供
(3)高齢化・人口減少下での負担の公平化
の3点について議論が行われましたので
その一部をご紹介いたします。
■受診時定額負担の導入
(1)保険給付範囲の在り方の見直しという点で、
財務省では、「受診時定額負担の導入」が
議論されています。
これは、日本の年間外来受診回数は
OECD平均の約2倍であり、医科・歯科合計で
年間約21億回といったことを踏まえたものです。
限られた医療資源の中で
医療保険制度の持続可能性を確保するためには
高額な医療費がかかった場合には
医療保険がしっかりと支えるという
安心を確保していく必要とし、
一方で、外来受診に関しては
少額の定額負担を導入し広く負担を
分かち合うべきではないかという考えです。
その他にも、「薬剤自己負担の引上げ」も
議論されています。
薬剤の種類に応じた自己負担割合の設定など
いろいろな手法を検討すべきとされています。
■次回診療報酬改定は「マイナス改定」
(2)保険給付の効率的な提供では、
2020年度の診療報酬改定に向けて
一定程度のマイナス改定を行い、
国民負担を抑制する必要があるとしています。
改定率については、
一般的な人件費や物件費の伸びを示す
「賃金・物価の伸び」の加重平均値
(医療機関と同じ費用構造にある場合の
一般企業のコスト)の近年の増加率より
も大きいこと、
また医療の高度化や患者数等の増加
(特に高齢化)を考慮すれば、
マイナス改定となっても
医療機関の収入は増加することなどを
根拠に「マイナス改定」を求めています。
さらに、病院と診療所の収益率を比較すると
その差が大きいことから、特に2020年度改定
においては、病院(救急対応等)と
診療所の間で改定率に差を設けることなど
財源配分のメリハリをつけることを
求めています。
■新たに75歳になる者から2割負担
高齢化・人口減少下での負担の公平化の
観点からは、75歳以上の者の1人当たり
医療費は現役世代の約4倍となっています。
その財源の8割強は公費と現役世代の支援金
となっており、現役世代は自らの医療費の
ほか後期高齢者支援金も負担しています。
近年の高齢者の医療費の増加により、
支え手である現役世代の保険料負担は
重くなっている状況が続いています。
そこで、世代間の負担の不公平感を
解消するために、
・新たに75歳になる者から70~74歳時と
同じ窓口負担2割とする
・3割負担を求める「現役並み所得」の
判定基準を見直す
ことを提言しています。
これは75歳以上の者の約4割は、
窓口負担を「負担に感じない」または
「あまり負担に感じない」と回答があり
財務省は「窓口負担の引き上げが可能」と
判断しているといえます。
財政制度分科会はさらに議論を深め、
2020年度予算編成や社会保障制度改革に
向けた意見を取りまとめることになります。
2020年度診療報酬改定に向けて
どのような議論が行われていくか
今後注視していきたいところです。
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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)
医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。