新型コロナ対応、「診療所の役割強化を」提言

5月6日の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの会合が開催されました。会合では、直近の感染状況等の分析と評価について議論のほかに、脇田座長や釜萢敏・日本医師会常任理事、尾身茂・地域医療機能推進機構理事長などメンバー4人の連名による「新型コロナウイルス感染症に対する医療提供体制の強化(たたき台)」の提言がありました。今回はその内容について、ご紹介していきます。


■直近の感染状況は?


医療提供体制の強化の提言の前に、直近の感染状況等に関する報告がありました。一都三県および関西圏の情報について、ここでは共有します。


【東京】
東京では20~50代の感染拡大により、全体でも感染者数の増加傾向が継続していると指摘。先週今週比に低下傾向が見られるものの、実効再生産数1以上が2カ月近く継続。地域的には都心を中心に周辺にも広がりが継続しているとしています。ただし、緊急事態宣言開始後は夜間滞留人口・昼間滞留人口ともに急減しており、2度目の緊急事態宣言時の最低値を下回る水準に。ただし、実効再生産数は1を下回っておらず、GW後も新規感染者数の増加が継続する可能性が指摘されています。

【埼玉、千葉、神奈川】
まん延防止等重点措置の開始から2週間経過したものの、新規感染者数は横ばいから微増で、夜間滞留人口・昼間滞留人口はGWに入り減少に転じたとしています。しかし実効再生産数は1前後で、新規感染者数は横ばいが続く可能性があると指摘されています。

【関西圏】
大阪、兵庫を中心に、医療提供体制や公衆衛生体制の非常に厳しい状況が継続し、救急搬送の困難事例が増えて一般医療を制限せざるを得ない危機的な状況が続いている。そのうえで、必要な医療を受けられる体制を守るためには、新規感染者数を減少させることが必須だとしています。また周辺では、奈良、和歌山では減少の動きが見られるとしています。


■医療提供体制、診療所の役割強化が必要


そのような感染状況等の議論の中、会合では「新型コロナウイルス感染症に対する医療提供体制の強化(たたき台)」として、以下の内容が提言されました。


【対策1】診療所の役割強化
診療所においても可能な範囲でさらに感染症対応能力を向上
●診療所スタッフの感染防止能力の向上
 ゾーニングの工夫
 動線の分離
●在宅診療・遠隔診療の取り組みを拡大
●施設療養・自宅療養中の新型コロナウイルス感染者への関与を拡大
●これらについての診療報酬など財政支援の継続

【対策2】都道府県における入退院調整に関する地域関係者間の連携強化
●後方病院の確保と転院調整本部の機能強化
●病院機能に応じた入院受け入れ可能情報の地域関係者間でのリアルタイムの共有

【対策3】災害医療ととらえた、病床・人材の確保に対する国の支援のさらなる強化
●現下の状況は災害医療的な対応が求められるとの認識の下、都道府県の病床・人材の確保に関する広域調整を国が支援するとともに、場合によっては国から病床や医療人材の確保を働きかけ


これまでは新型コロナウイルスに関しては、病院の役割を中心に議論されてきていましたが、今回はそれに加えて診療所の役割についても強化すべく議論が必要とされています。たとえば、施設療養・自宅療養中の患者など、診療所で対応できる患者については対応を求め、それに対して診療報酬などの財政支援が継続されていくことが提言されています。また病床確保に向けては、コロナ回復後の患者を受入れることができる後方病院や介護施設などの充実が必要であり、そのための地域関係者間での連携強化が必要としています。


■おわりに


新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、病床の確保など医療提供体制をあらためて見直すことが必要とされています。その影響により、地域医療構想を含めた医療提供体制改革は一層、視界不良となったと言わざるを得ません。増してや新型コロナと地域医療構想は相性が悪く、短期的な有事対応と中長期的な平時対応を必要に応じて切り替える柔軟なスタンスが必要となってきます。医療提供体制改革の推進に際して、都道府県は難しい舵取りを強いられているといえるでしょう。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。