クリニックにおける機能の明確化とは~誰を顧客とするのかを決める~

「外来機能報告制度」の議論が、厚生労働省のワーキンググループで本格化されてきました。この制度は、外来医療の機能分化を推進するための方策として取り組まれているもので、対象となった病院は紹介中心型の病院として位置づけられます。これまでも地域医療構想や働き方改革などを受けて、医療機能を明確化して、効率的に医療を提供する流れが進んできましたが、新型コロナウイルス感染症の影響でその流れが一気に加速していると感じています。この機能の明確化の流れは、病院だけが対象と考えてしまいがちですが、クリニックにおいても自院の機能を明確化しておくことは、マーケティングや職員採用、ブランディングなどの観点からも必要と考えます。では、クリニックにおける機能の明確化とはどういうことでしょうか?今回のコラムではそのあたりを深掘りしたいと思います。


■クリニックにおける機能の明確化とは
「医療機能の明確化」については、どうしても病院だけが対象と考えてしまいがちではありますが、クリニック経営においても必要な考え方ではないかと思うのです。特にこれからのクリニック経営を安定させるうえで、自院の機能をどうするのかを問い続けることは経営者にとって必要なこといえます。

では具体的にクリニックで「自院の機能を明確にする」とは、どういうことでしょうか?経営学者として著名なドラッカーの言葉を借りると、それは「誰を顧客とするのかを決める」ということです。

開業を考える医師によくあるケースですが、自分の「都合のいい時間帯や曜日」で「得意な技術や専門性」を提供できるクリニックをつくろうと考えてしまいがちです。しかし多くの場合、自分の都合だけを中心に開業したクリニックは、その診療時間帯や診療科のニーズが発生するのを待つだけの受け身の運営になる可能性があります。そうなると、経営が安定軌道するまでに時間がどうしてもかかってしまいます。

クリニック経営に限らずどんなサービスも同じですが、基本は「顧客ありき」をベースに考えることです。クリニック開業も同じで、可能な限り地域住民のニーズに沿った形で開業することで、開業の最初から地域住民に高い価値を感じてもらうことができます。特に首都圏など競合が多いエリアでは、患者側の選択肢は豊富にありますので、この考え方は重要といえます。


■機能の明確化の手順
ではクリニックの機能を明確化するためには、どのような手順で考えればいいでしょうか。1つの考え方にはなりますが、具体的な手順としては、次のとおりです。

①誰を顧客とするか(どういう患者の役に立ちたいのか)
②顧客にとっての価値は何か(その患者のお困り事は何か)
③自院が何を提供すべきか(お困り事の解決策は何か)


多くのクリニックが③から考えてしまいがちですが、大切なのはこの順番です。この①~③の順番で言語化していくことが重要となります。


■「顧客から直接答えを得なければならない」byドラッカー
とは言っても、院長お一人では上記の手順で考えてみてもなかなかしっくりこないケースもあると思います。可能でれば、院長だけでなく、働いている職員などとディスカッションしてみることもよいと思います。そしてさらに、新規開業時であれば地域の住民、すでに開業されている場合は既存の患者さんに聞いてみることがおすすめです。特に②に関しては、P.F.ドラッカーも以下のように書いています。ぜひ実践されてみてください。


“顧客は何をもって価値とするか、何が彼らのニーズ、欲求、期待を満たすかとの問いは、実はあまり複雑であって、顧客本人しか答えられない。(中略)したがって、答えを想像してはならない。必ず、顧客から直接答えを得なければならない。”
(『経営者に贈る5つの質問』P.F.ドラッカー著 ダイヤモンド社)


新規開業時にはもちろんですが、既にご開業されている先生方にも少し立ち止まって「誰を顧客とするか」考えていただくことをおすすめします。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。