地域医療構想、再検証対象病院の4割が合意済み
~新潟「上越」「佐渡」、広島「尾三」が新たな重点支援区域に~

いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達する2025年が着実に迫ってきています。今後急速に増加していくと予想される医療ニーズに備えて、各地域における「地域医療構想の実現に向けた取組み」を早急に進めることが求められています。しかしながら新型コロナウイルス感染症対策に行政・医療現場が対応せざるを得ないこともあり、なかなか進捗しない状況がうかがえます。そんな中、12月3日に地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ(以下、WG)が開催され、地域医療構想の検討・取組み状況についての調査結果の報告がおこなわれました。本稿では、その内容について一部ご紹介していきます。


■地域医療構想とは
今後の人口減少・高齢化に伴う医療ニーズの質・量の変化や労働力人口の減少を見据え、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するためには、医療機関の機能分化・連携を進めていく必要があります。こうした観点から、各地域における 2025 年の医療需要と病床の必要量について、医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに推計し、「地域医療構想」が策定されました。
そのうえで、各医療機関の足下の状況と今後の方向性を「病床機能報告」 により「見える化」することで、地域医療構想における必要量とのギャップが明確化されます。その内容などを踏まえ、各構想区域に設置された「地域医療構想調整会議」において、病床の機能分化・連携に向けた協議をしていくことになっています。

出典:第1回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ 資料


■4割の病院で機能転換やダウンサイジングで合意
12月3日に開催された地域医療構想及び医師確保計画に関するWGでは、医療機関ごとの病床数の再検証対象とされた436公立・公的医療機関について、地域医療構想の検討・取組み状況における調査結果の報告がおこなわれました。

436医療機関のうち、「合意済の医療機関数」は92病院、「合意結果に基づき措置済みの医療機関数」は83病院。その内訳として、「病床機能の見直し」:94病院、「病床数の見直し」:67病院、「複数医療機関による再編を実施」:24病院、「その他、医療機関の役割の見直し」:14病院、「従前どおり」:44病院となりました(複数回答可)。

「従前どおり」と回答した理由は、「現行の医療機能や役割を見直す必要がない」が26病院で最も多く、次いで「再検証要請前に医療機能や役割を転換しており見直す必要がない」が13病院、「住民等の反対がある」が2病院という順となりました。

再検証の結果、2017 年から2025年にかけて、全体の病床数は 6.59 万床から6.02 万床に減少(約9%減少)する見込みです。その内訳は以下のとおりです。

▼高度急性期病床:0.11万床(2%)→0.10 万床(2%)に減少
▼急性期病床:4.03 万床(61%)→ 2.91 万床(49%)に減少
▼回復期病床:1.09 万床(17%)→ 1.80 万床(30%) に増加
▼慢性期病床:1.36 万床(21%)→1.19 万床(20%)に減少

一方で「再検証中」と回答した237病院のうち、「既に1回以上調整会議で議論を行った」のは122病院で、約50%はまだ調整会議で議論を行っていないということになります。ではこういった病院は何も議論をしていないというと、そういうわけではなく、「医療機関として既に検討済み」が87病院、「新型コロナの経験を踏まえ改めて検討中」が92病院となっており、病院単体としては検討済みもしくは改めて検討中といった病院が多いことがうかがえます。

出典:第2回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ 資料


■新たな重点支援区域に新潟「上越」「佐渡」、広島「尾三」
そんな中、4回目となる地域医療構想の実現に向けた重点支援区域の選定で、新たに新潟県の「上越」及び「佐渡」区域、広島県の「尾三」区域が選定されました。重点支援区域として、これまで3回にわたり11道県14区域を選定してきました。重点支援区域に選定されると、医療機能の再編等を検討するための医療機関に関するデータ分析などの技術的支援と地域医療介護総合確保基金の優先配分などの財政的支援を国から受けることができます。厚生労働省では、重点支援区域の申請は随時募集しており、今後も選定を行う予定となっています。


■おわりに
このように、地域医療構想調整会議の進み具合としては総じて「十分ではない」ということが言えそうではありますが、新型コロナウイルス感染症の収束がまだであり、これから寒くなると懸念される第6波への対応なども考慮すると、自治体や医療機関などもなかなか対応しれきれない点もあるのではないかと想定します。2025年まで待ったなしの状況下でどのような対応策がなされるのか、今後の動向に注目です。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。