「感染対策向上加算1」大幅増点、平時からの感染対策を評価
2月9日、2022年診療報酬改定における中医協総会での諮問案答申資料が公開されました。今回の診療報酬改定の具体的な方向性としては、「①新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」「②安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進」「③患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」「④効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上」を掲げ、そのうち①②を重要課題として位置づけました。今回はその中で、「①新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」に該当するものをいくつか紹介していきます。
■感染対策の増点によりコロナ患者受け入れ病院が増える?
今回の改定においては、平時からの感染対策の強化を促す、評価する観点から、感染対策向上加算(現行は感染防止対策加算)が大幅に増点されました。この流れは新型コロナウイルス感染症の流行により、感染対策の重要性が再認識されたことによるものとなります。
感染症対策は「感染症が流行してから実施する」のでは遅すぎであり、平時から感染症対策に関する意識を高め、準備・対策を講じておくことが必要となります。それによりパンデミックなどの有事にも、的確に対応することが可能となります。
今回の改定では、現行の感染防止対策加算を組み替え、新たに「感染対策向上加算」として次のように改編されました。
【感染対策向上加算】
感染対策向上加算1:710点(現行の感染防止対策加算1:390点)
感染対策向上加算2:175点(現行の感染防止対策加算2:90点)
感染対策向上加算3: 75点(新設)
現行の感染防止対策加算は、大規模病院の算定割合は高いですが、中小規模病院ではそれほどでもない現状がありました。今回の新型コロナウイルス感染症の経験から、感染防止対策はすべての医療機関が強力に取り組む必要があるとの認識が強まったのではないかと想定されます。
今回、比較的要件が緩やかな加算3を設定し、中小規模病院でも算定しやすくすることで、感染防止対策の意識が向上し、そこからより上位となる加算1・2の取得を促すことが狙いとみえます。
特に加算1に関しては390点から710点の大幅増点ではありますが、施設基準の中の1つに「新興感染症の発生時等に、都道府県等の要請を受けて感染症患者を受け入れる体制を有し、そのことについてホームページ等に公開していること」が明確に設けられました。また加算2においても同様に「新興感染症の発生時等に、都道府県等の要請を受けて感染症患者又は疑い患者を受け入れる体制を有し、そのことについてホームページ等に公開していること」が明確化されました。
■クリニックにおいても感染対策を評価
またクリニックおいても、新型コロナウイルス感染症などへの対応として、初再診料を算定する場合の「外来感染対策向上加算(6点)」が新設されました。また他施設と連携するなど、一定の条件を満たした場合には「連携強化加算(3点)」や「サーベイランス強化加算(1点)」も算定可能です。ただし「新興感染症の発生時等に、都道府県等の要請を受けて発熱患者の外来診療等を実施する体制を有し、そのことについてホームページ等により公開していること」が要件となります。
このように今回の改定では、新興感染症の発生時等における実質的な体制整備が求められているといえます。これまで病院によっては、現行の感染防止対策加算1を算定していても、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れていなかった医療機関も沢山あると思います。今回の改定を踏まえどのような対応を行うのか、医療機関の感染対策における姿勢が問われているともいえるでしょう。
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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)
医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。