すべての病院で働き方改革に向けた病院内の意見交換会を
2024年4月の医師の働き方改革がスタートまで、残すところあと2年をきりました。すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制【原則A水準:年間960時間以下、B水準(救急医療など地域医療に欠かせない医療機関):年間1860時間以下、C水準(研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師など):年間1860時間以下】を適用するとともに、追加的健康確保措置などを講じる義務が医療機関の管理者に課されることになります。ではどうやって働き方改革を進めていけばよいでしょうか?今回はそのポイントについていくつかご紹介していきます。
■「院内の意見交換会」が極めて有益
「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)の下部組織に、「勤務医に対する情報発信に関する作業部会」(以下、作業部会)が設置されています。これは、勤務医に対する医師の働き方改革の認知が進んでいない、情報が伝わっていないという課題があるため、勤務医に対する効果的な情報発信を検討するために設置されました。
その作業部会では、医師を含め、医療関係者の意識改革や行動変容を促していくための効果的な周知方法を集中的に検討されました。その中でモデルケースとして厚労省のバックアップのもと、数病院で実施された「院内の意見交換会」が極めて有益であることを確認されたという報告がされています。働き方改革に対しては、ジェネレーションギャップなどそれぞれの認識のズレがあるものの、全世代が同じ方向を向いて取り組んでいけるような土壌づくりが必要といえます。その中で意見公開会は、そのお互いのズレを認識し、新たな認識、意味づけをする良い機会になるといえます。
3月23日の検討会では、この「院内の意見交換会」をすべての病院で行うことが望ましいとの意見や実施に向けての支援策の必要性などが議論されました。
■病院における働き方改革が進まない理由
では、「院内の意見交換会」というのが極めて有益なのでしょうか?病院における働き方改革が進まない理由を踏まえ、あらためて考えてみたいと思います。
働き方改革が進まない要因の1つとして、【病院という組織構造の複雑性】にあると考えられます。病院は国家資格が付与されている専門職が一堂に会する組織であり、法的に分業化されていることが特徴です。そのため各職種の業務に他職種は介入しない、医師によっては業務が属人的になることも多い傾向にあります。そのため職種間の心理的距離が遠くなり、壁が生じやすいといえます。またその専門性から自律性が高く、現場の裁量が大きいことから方針徹底などがされづらい特徴もあります。ですので、先ほどの意見交換会のように、定期的にお互いにコミュニケーションを取り合う場が必要といえます。
2つ目の理由が、【働き方改革は適応課題】であるということです。問題の1つの分け方として、技術的問題と適応課題の2つにわけることができます。
技術的問題とは、すでに解決策が分かっており、既存の知識で実行可能であり、高度な専門知識、組織内の既存の構造、手続き、実行方法によって解決できる問題となります。解決策も検討がつくので、外部の専門家に課題解決を委ねることも可能となります。
一方で、適応課題とは、自身のものの見方や、周囲との関係性が変わらないと解決できない問題であり、自分も当事者であり、問題の一部となっています。ですので、専門家からの支援は得られるが、課題解決は自身の気づきなどが必要であり、他人に委ねることはできません。
働き方改革はまさしくこの適応課題といえます。ですので、知識やスキルの獲得だけでは対処できないものになりますので、解決するには自身を変化させる必要となります。そのためには変化するきっかけとなる“気づき”をつくり出すことが必要となります。そういった視点で考えると、前述の意見交換会などで対応することは、この気づきを促すのに有益な場になるのではないかと考えられます。
2024年4月より医師の働き方改革の適用が始まります。対象となる医師がいる病院はもちろんですが、そうでない病院にとっても、働き方改革はこれまでの組織文化や風土を見直すきっかけになると考えられます。中長期的な経営課題として、前向きに取り組むことが必要といえるのではないでしょうか。
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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)
医療総研株式会社 認定登録医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。