コラム
COLUMN

看護職員の月額1万2千円の処遇改善に関する議論が開始

看護職員の処遇改善について、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)及び「公的価格評価検討委員会中間整理」(令和3年12月21日)を踏まえ、令和4年度診療報酬改定において、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、10月以降収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善の仕組みを創設することが決定されました。

これらの処遇改善に当たっては、介護・障害福祉の処遇改善加算の仕組みを参考に、予算措置が確実に賃金に反映されるよう、適切な担保措置を講じることとされていますが、その詳細については明らかにされていませんでした。

病院の看護職員に充てる必要額を診療報酬でどのように設定していくのか、これが大きな議論になっていくことが想定されます。

その議論の前段階として、看護の処遇改善について、診療報酬において対応するに当たり、入院・外来医療等の調査・評価分科会において必要な調査・分析を行っていくことが、4月27日の中央社会保険医療協議会 総会などで決定されました。

具体的な調査項目については、以下の内容が挙げられています。

【1】調査を実施する場合の趣旨
○看護の処遇改善に係る制度設計の検討に当たっては、NDBによる診療報酬のレセプト情報等を用いることが考えられるが、各医療機関における看護職員の配置状況等についても把握する必要がある。

○これについては、令和2年度病床機能報告により、令和2年7月時点の状況を把握することが可能であるが、今回の処遇改善の検討に当たっては、できる限り直近の医療機関の看護職員数等の状況を踏まえることが考えられ、その場合には、以下のような特別調査の設計が考えられるのではないか。

【2】調査を実施する場合の対象
今回の診療報酬による看護の処遇改善の対象となり得る医療機関を調査対象とする。具体的には、①救急医療管理加算を算定する救急搬送件数 200 台/年以上の医療機関(※)、②三次救急を担う医療機関のいずれかに該当する医療機関。
(※)実際の調査対象については、病床機能報告の活用により、救急搬送件数 200 台/年以上の医療機関とすることが考えられる。

【3】調査を実施する場合の主な内容
○病床数・人員配置等(令和3年7月1日及び令和4年4月1日時点)
・許可病床数、病棟数
・病棟・治療室ごとの届出入院料
・部門(病棟部門・手術室・外来部門・その他)別の看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)数

○患者の受入状況等(令和3年度)
年間の在棟患者延べ数、年間の外来患者延べ数、年間の救急搬送件数

○その他
救急医療管理加算の届出有無

上記の調査を5~6月 に実施し、その調査結果を元に、分科会及び中医協総会においてデータ分析・検討するスケジュールが出されています。


これに関しては、反対する意見はないものの、「病床数・人員配置等については、人事異動等の時期を考慮し、令和4年4月1日ではなく、令和4年5月1日時点の状況を調査時点とすることについて、どのように考えるか」「患者の受入状況等については、今後の点数設計を考慮し、新規入院患者数を含めておくことについて、どのように考えるか」などの意見がありました。


まだまだどのような制度設計になるか先行きが不透明な「看護処遇改善」。診療報酬による医療機関の収入は、患者数などの影響で変動するものなので、想定する処遇改善の金額と実際に得られる金額に過不足が生じることが考えられます。そのような過不足を最小限に抑えるためにはどのように行うべきか、今後の調査を受けての制度設計に注視する必要があるといえるでしょう。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定登録医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。