医師の働き方改革、時間外960時間超の病院で宿日直許可済みは約3割
医師の働き方改革について、2024年4月からの医師の時間外労働時間の上限規制等の適用開始に向け、都道府県及び医療機関における準備状況の調査が行われました。2022年6月3日の社会保障審議会医療部会では、その結果報告が行われました。2024年4月以降の時間外・休日労働時間が年960時間超の医師が存在すると回答した529病院のうち、宿日直許可を得ているのは168病院(32%)、「申請する予定もない」は87病院(16%)存在する状況が明らかになりました。この結果から、医師の働き方改革が思った以上に進んでいない現状がうかがえます。今回はその調査結果について、一部をご紹介します。
■働き方改革による医療提供体制への影響把握は6都道府県
今回の調査は、地域内の医療機関の、施行に向けた準備状況を把握する体制(都道府県における医師の充足状況の把握方法や医師確保のための検討の場の設置状況等)と、地域内の各医療機関の対応方針が地域医療提供体制に与える影響をどのように評価しているかを調査するため、都道府県に対しても行われました。調査項目としては、つぎの4点です。
・地域内の医療機関の施行に向けた準備状況を把握する体制
・医療機関に対する支援の体制
・管内で想定される医師派遣の中止による地域医療提供体制への影響の有無(診療科・地域ごと)
・影響がある場合、生じうる影響の詳細(医療圏、診療領域ごと)
調査結果としては、医師の働き方改革による医療提供体制への影響の把握に関する取組を行っていると回答した都道府県は6都道府県(13%)で、今後行う予定の都道府県を含めると28都道府県(60%)となりました。また小児・周産期・救急医療提供体制への医師の働き方改革の影響が把握できていないと回答した都道府県は40都道府県(85%)と、対応が追い付いていない状況がうかがえます。
■約40%の病院が時間外・休日労働時間の把握済み
また病院に対しては、全ての病院を対象に「院内の医師の労働時間の状況」「宿日直許可の申請・取得状況」「特例水準の指定取得の意向の有無」の調査が行われ、特に、医師派遣を行う病院に対しては、「医師派遣の中止の意向の有無」「医師派遣を中止する場合の診療科」「派遣する医師派遣の詳細(人数等)」の調査が行われました。
時間外・休日労働時間の把握状況に関しては、回答のあった3,613病院のうち、副業・兼業先も含めた時間外・休日労働時間を概ね把握していると回答した病院は1,399病院(39%)と、まだまだ進んでいないことがわかります。また大学病院の本院82病院のうちでは20病院(24%)にとどまっています。
■時間外960時間超の病院で宿日直許可済みは約30%
続いて、宿日直許可の申請・許可状況については、2024年4月以降の時間外・休日労働時間が960時間を超える医師がいる見込みがあると回答した529病院(うち大学病院の本院は69病院)のうち、
• 宿日直許可を得ている病院は168病院(32%)で、そのうち大学病院の本院は46病院(67%)
• 宿日直許可を申請予定だが申請していない病院は234病院(44%)で、そのうち大学病院の本院は12病院(17%)
• 宿日直許可を申請したが許可が得られなかった病院は40病院(8%)で、そのうち大学病院の本院は3病院(4%)
という結果となりました。
2024年4月の医師の働き方改革がスタートまで、残すところあと2年をきりました。今回の調査結果を踏まえて、コロナ対応や診療報酬改定などに追われる各病院における医師の働き方改革の進捗をどのように評価すべきか、今後の議論に注目があつまります。
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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)
医療総研株式会社 認定登録医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。