「医療DXにより実現される社会」の共有、オンライン資格確認がその基盤-医療DX推進本部の初会合-
■医療DX推進本部の初会合開催
世界に先駆けて少子化等が進んでいる我が国において、特に国民一人一人の健康寿命の延伸、医療現場における業務効率化の促進、医療等の各種サービスの効率的、効果的な提供を行っていく上で、医療分野のデジタルトランスフォーメーション、医療DXの取組を進めていくことは非常に重要といえます。その旗振り役ともいえる医療DX推進本部の第1回目が2022年10月12日に開催されました。
医療DX推進本部は、内閣に設置された岸田内閣総理大臣を本部長とする部であり、医療DX推進に関連する施策の進捗状況等を共有・検証すること等を目的とされています。
■医療DXの3つの柱
医療DXに関しては、骨太方針2022にも盛り込まれている内容であり、その推進の背景の1つには、今般の新型コロナウイルス感染症流行への対応が挙げられます。今回の対応を踏まえ、平時からのデータ収集の迅速化や収集範囲の拡充、医療のデジタル化による業務効率化やデータ共有を通じた医療の「見える化」の推進等により、次の感染症危機において迅速に対応可能な体制を構築することが急務であるという課題が認識されました。近年、さまざまな業種でDX化が進んでいますが、今回の対応により、医療分野におけるDX化が非常に遅れていることが浮き彫りになったといえます。
これらの状況を改善するために、当面つぎの3つの柱を中心に進めていく方向性が示されています。具体的には、「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」になります。
■医療DXにより実現される社会
第1回目の医療DX推進本部では、医療DXにより実現される社会の共有が図られました。
出典:医療DX推進本部(第1回 令和4年10月12日(水)) 資料4:医療DXにより実現される社会(厚生労働大臣提出資料)
具体的には、
①誕生から現在までの生涯にわたる保健医療データが自分自身で一元的に把握可能となることにより、個人の 健康増進に寄与
②本人同意の下で、全国の医療機関等が必要な診療情報を共有することにより、切れ目なく質の高い医療の受療が可能
③デジタル化による医療現場における業務の効率化、人材の有効活用
④保健医療データの二次利用による創薬、治験等の医薬産業やヘルスケア産業の振興
の4つになります。
③について補足すると、デジタル化による医療現場における業務効率化により、次の感染症危機において、必要な情報を迅速かつ確実に取得できるとともに、医療現場における情報入力等の負担の軽減が可能となります。また診療報酬改定に関する作業の効率化により、医療従事者のみならず、医療情報システムに関与する人材の有効活用、費用の低減を実現することで、医療保険制度全体の運営コストの削減が期待されています。
■オンライン資格確認が基盤、閲覧可能な項目も拡大
図表をみてもわかるとおり、医療DXの基盤となるものが、オンライン資格確認となります。2023年4月より医療機関・保険薬局にその導入が原則、義務付けされたのも、その重要性の高さからと推察されます。
また直近では、2022年9月より、オンライン資格確認等システムを通じて閲覧できる情報が、放射線治療・画像診断・病理診断・医学管理等といった診療行為などにも拡大されました。さらには、2023年5月をめどに、手術(移植・輸血含む)や短期滞在手術等基本料の閲覧も予定されています。
まだまだハード・ソフト面も含め、乗り越える課題は多いですが、今後の日本の状況を踏まえると、医療DXへの取組みは不可避と考えます。医療DX推進本部を筆頭に、よりよい形で医療DXが進んでいくことが期待されます。
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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)
医療総研株式会社 認定登録医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。