コラム
COLUMN

感染防止対策関連に多くの疑義解釈通知~「届出時」における研修実施や訓練参加などの実績不要~

2022年度の診療報酬改定において大きく見直された項目として、「感染対策向上加算」があります。感染対策向上加算は、新型コロナウイルス感染症対応などを踏まえて、これまでの感染防止対策加算の内容を大きく拡充したものになります。疑義解釈でも当加算に関する内容が多く、医療機関も注視している項目といえます。本稿では、その今回新たに改編された「感染対策向上加算」について詳細を確認していきます。


地域全体での感染症対策を高く評価


感染対策向上加算(以下、「加算」という)は、新型コロナウイルス感染症対応を踏まえて、従前の感染防止対策を大きく拡充したものになりますが、その特徴としては、地域の医療機関同士の「連携」がキーとなっていることです。図表1をみると分かるように、加算1を算定している病院を中心に、「地域全体(面)で感染対策を行う」ことを評価する項目となっています。またそのための「指導強化加算」「連携強化加算」も新設されています。さらに今回の改定では「外来感染対策向上加算」が新設されました。これは診療所のみが算定可能であり、病院だけでなく、診療所においても地域の病院と連携しながら、一定程度の感染防止対策体制を求める内容となっています。まさしく、加算1の病院を中心に、地域が一丸となって感染症対策を行うことを促進する改定内容といえます。


図表1 各医療機関が連携して地域における感染対策を底上げ



注目度の高い感染防止対策関連

疑義解釈通知に関しては、現時点でその1~4まで出ていますが、今回大きく見直された感染防止対策関連の項目に多くの質問が出ています。

例えば、各加算の施設基準にある「新興感染症の発生時等に、都道府県等の要請を受けて感染症患者(加算1の場合)を受け入れる体制」などの「体制」について、明確化されました。具体的には、感染防止対策加算1は、新型コロナウイルス感染症に係る「重点医療機関」、加算2は「協力医療機関」、加算3は「診療・検査医療機関」が現時点では該当するとしています。

また感染防止対策加算や外来感染対策向上加算の届出医療機関間の連携についても、①特別の関係にある保険医療機関と連携している場合でも可能、②医療圏やトド府県を超えて連携している場合は、新興感染症の発生時や院内アウトブレイクの発生時等の有事の際に適切に連携することが可能である場合は、届出可能としました。

感染対策向上加算2及び感染対策向上加算3の施設基準において、「当該保険医療機関の一般病床の数が300 床未満を標準とする」とされていますが、この点に関しても、医療法上の許可病床数300 床以上である場合であっても、施設基準を満たしていれば、届出を行って差し支えないとし、逆に一般病床の数が300 床未満の保険医療機関が、感染対策向上加算1の届出を行うことは可能としました。

さらに、4月13日公開された疑義解釈通知(その4)では、感染対策向上加算等の施設基準の届出の事項に記載されている「当該加算の届出についてはいずれも実績を要しない」の内容について明らかにしました。

ただしこれらは、今回の「届出時」に求められないだけであり、加算取得後に計画的に実施していく必要があります。


地域における病病・病診連携のきっかけとなる加算


病院によっては、今回の感染対策向上加算をきっかけに、地域の医療機関との連携を積極的に働きかけている施設もあります。具体的には、ホームページ上に「感染対策向上加算に係る医療連携申請用紙」を公開し、地域の病院やクリニックに登録してもらうといった運用をとっている病院もあります。

またこれまで積極的に病院と連携していなかったクリニックにおいても、今回の加算の要件により、感染対策向上加算1の病院が主催するカンファレンスや訓練などに年数回参加することになりますので、連携の機会を得ることになります。

ですので、今回の感染対策向上加算は、地域連携による面での感染対策はもちろんのことですが、患者の連携(紹介・逆紹介など)にも繋がる加算といえるのではないでしょうか。なかにはハードルの高い要件も含まれますが、地域における感染対策向上・医療連携に貢献する加算となりますので、すべての医療機関で積極的に取り組まれることが期待されます。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定登録医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

すべての病院で働き方改革に向けた病院内の意見交換会を

2024年4月の医師の働き方改革がスタートまで、残すところあと2年をきりました。すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制【原則A水準:年間960時間以下、B水準(救急医療など地域医療に欠かせない医療機関):年間1860時間以下、C水準(研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師など):年間1860時間以下】を適用するとともに、追加的健康確保措置などを講じる義務が医療機関の管理者に課されることになります。ではどうやって働き方改革を進めていけばよいでしょうか?今回はそのポイントについていくつかご紹介していきます。


■「院内の意見交換会」が極めて有益
「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)の下部組織に、「勤務医に対する情報発信に関する作業部会」(以下、作業部会)が設置されています。これは、勤務医に対する医師の働き方改革の認知が進んでいない、情報が伝わっていないという課題があるため、勤務医に対する効果的な情報発信を検討するために設置されました。

その作業部会では、医師を含め、医療関係者の意識改革や行動変容を促していくための効果的な周知方法を集中的に検討されました。その中でモデルケースとして厚労省のバックアップのもと、数病院で実施された「院内の意見交換会」が極めて有益であることを確認されたという報告がされています。働き方改革に対しては、ジェネレーションギャップなどそれぞれの認識のズレがあるものの、全世代が同じ方向を向いて取り組んでいけるような土壌づくりが必要といえます。その中で意見公開会は、そのお互いのズレを認識し、新たな認識、意味づけをする良い機会になるといえます。

3月23日の検討会では、この「院内の意見交換会」をすべての病院で行うことが望ましいとの意見や実施に向けての支援策の必要性などが議論されました。


■病院における働き方改革が進まない理由
では、「院内の意見交換会」というのが極めて有益なのでしょうか?病院における働き方改革が進まない理由を踏まえ、あらためて考えてみたいと思います。

働き方改革が進まない要因の1つとして、【病院という組織構造の複雑性】にあると考えられます。病院は国家資格が付与されている専門職が一堂に会する組織であり、法的に分業化されていることが特徴です。そのため各職種の業務に他職種は介入しない、医師によっては業務が属人的になることも多い傾向にあります。そのため職種間の心理的距離が遠くなり、壁が生じやすいといえます。またその専門性から自律性が高く、現場の裁量が大きいことから方針徹底などがされづらい特徴もあります。ですので、先ほどの意見交換会のように、定期的にお互いにコミュニケーションを取り合う場が必要といえます。

2つ目の理由が、【働き方改革は適応課題】であるということです。問題の1つの分け方として、技術的問題と適応課題の2つにわけることができます。

技術的問題とは、すでに解決策が分かっており、既存の知識で実行可能であり、高度な専門知識、組織内の既存の構造、手続き、実行方法によって解決できる問題となります。解決策も検討がつくので、外部の専門家に課題解決を委ねることも可能となります。

一方で、適応課題とは、自身のものの見方や、周囲との関係性が変わらないと解決できない問題であり、自分も当事者であり、問題の一部となっています。ですので、専門家からの支援は得られるが、課題解決は自身の気づきなどが必要であり、他人に委ねることはできません。
 
働き方改革はまさしくこの適応課題といえます。ですので、知識やスキルの獲得だけでは対処できないものになりますので、解決するには自身を変化させる必要となります。そのためには変化するきっかけとなる“気づき”をつくり出すことが必要となります。そういった視点で考えると、前述の意見交換会などで対応することは、この気づきを促すのに有益な場になるのではないかと考えられます。


2024年4月より医師の働き方改革の適用が始まります。対象となる医師がいる病院はもちろんですが、そうでない病院にとっても、働き方改革はこれまでの組織文化や風土を見直すきっかけになると考えられます。中長期的な経営課題として、前向きに取り組むことが必要といえるのではないでしょうか。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定登録医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

紹介受診重点医療機関、「地域の協議の場」ガイドライン案が提示

3月16日に開催された「外来機能報告等に関するワーキンググループ」で、紹介受診重点医療機関の明確化などを行う「地域の協議の場」の進め方ガイドライン案が提示されました。今回の改定における1つの目玉でもある「紹介受診重点医療機関」。今回はその明確化のためのガイドライン案をご紹介します。


■診療報酬改定でも後押し
わが国の抱えている外来医療の課題として、

○患者の医療機関の選択に当たり、外来機能の情報が十分得られず、また、患者にいわゆる大病院志向がある中、一部の医療機関に外来患者が集中し、患者の待ち時間や勤務医の外来負担等の課題が生じている
○人口減少や高齢化、外来医療の高度化等が進む中、かかりつけ医機能の強化とともに、外来機能の明確化・連携を進めていく必要がある

があります。

これらを解決するために、医療資源を重点的に活用する外来の機能に着目して、「外来機能報告制度」を創設して、紹介患者への外来を基本とする【紹介受診重点医療機関】を明確化することが決定されました。

今回の診療報酬改定では、この流れを促進するために、医療機関が【紹介受診重点医療機関】になることのメリットを盛り込んだ項目もいくつかあります。

1つは、【紹介受診重点医療機関入院診療加算800点(入院初日)】が新設されました。仮に
1月あたりの新入院200人いたとしたら、単純計算で年間19,200千円の増益となります。これにより見込まれる外来患者減少による収入減の補填になるという考え方になります。

2つ目は、診療情報提供料(Ⅲ)の見直しで名称が変更された【連携強化診療情報提供料(150点)】です。紹介受診重点医療機関になれば【連携強化診療情報提供料】の算定要件を満たすことが追加されました。これらも考慮し、多くの病院が紹介受診重点医療機関に手上げすることが期待されています。


■医療機関の意向が第一であることを踏まえつつ協議
では、いったい【紹介受診重点医療機関】になるためにはどのようなステップが必要なのでしょうか?今回のワーキンググループでは、紹介受診重点医療機関の明確化などを行う「地域の協議の場」の進め方ガイドライン案が提示されました。

具体的には、つぎの3つを考える必要があります。

①医療機関の意向の有無
紹介受診重点医療機関になりたい/なりたくない

②医療資源を重点的に活用する外来に関する基準
初診の外来件数のうち「医療資源を重点的に活用する外来」の件数の占める割合:40%以上
かつ
再診の外来件数のうち「医療資源を重点的に活用する外来」の件数の占める割合: 25%以上

③紹介率及び逆紹介率
 紹介率50%以上かつ逆紹介率40%以上

①の「紹介受診重点医療機関になりたい」という意向があり、②の基準をクリアしている医療機関であれば、特別な事情がない限り、紹介受診重点医療機関となることが想定されます。

「地域の協議の場」で議論が必要なのは、つぎのケースです。

ケースA:意向あり/②の基準に達せず
ガイドライン案によると、ケースAの場合は、「地域の協議の場において、医療資源を重点的に活用する外来に関する基準に加えて、紹介率・逆紹介率等を活用して協議を行う」必要があるとのことです。

ケースB:意向なし/②基準クリア
一方、ケースBの場合は、「当該医療機関の意向が第一であることを踏まえつつ、当該地域の医療提供体制のあり方を協議の上、紹介受診重点医療機関の趣旨等について説明し、2回目の協議に向けて改めて意向を確認する」とあります。当該医療機関の意向が優先されるとのことですが、2回目の協議への対応が必要となるようです。


■病床機能報告と一体となって行う
外来機能報告は、病床機能報告と一体的に報告を行うとされています。令和4年度以降の具体的な年間スケジュールは以下の表のとおりであり、年度内に地域の協議の場における協議を行うことが予定されています。なお、令和4年度については、原則として、都道府県において、令和5年3月までに紹介受診重点医療機関を公表される見込みです。





地域により医療提供体制はさまざまです。ですので、基準もそうですが、地域の協議の場での議論が非常に重要といえます。いずれにせよ、今回の制度は自院における外来機能の在り方を見直すきっかけとなるでしょう。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定登録医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

【回リハ・療養の2022診療報酬改定】 “質”の向上が一層求められる改定!?

前回のコラムでは、地域包括ケア病棟入院料の改定内容について、ご紹介させていただきました。本日は、回復期リハビリテーション病棟入院料(以下、回復期リハ)と療養病棟に関する主な改定内容についてご紹介していきます。


■回復期リハ1・3の要件に「第三者評価の導入」追加
復期リハについて、主な改定内容はつぎのとおりです。

①「回復期リハ5」の廃止、現行の「回復期リハ6」を新たな「回復期リハ5」に位置づけ(新規届出の場合は、算定期間は2年間に限る

②重症患者割合の見直し
回復期リハ1・2:4割以上(現行3割)
回復期リハ3・4:3割以上(現行2割)

③回復期リハ1・3の施設基準に「日本医療機能評価機構等による第三者の評価を受けていることが望ましい」を追加

④「回復期リハビリテーションを要する状態」について、「急性心筋梗塞、狭心症発作その他急性発症した心大血管疾患又は手術後の状態」を追加(算定上限90日以内)

⑤「特定機能病院リハビリテーション病棟入院料」の新設

③については、特定機能病院の医療安全体制の質担保において第三者評価の承認が要件化されたのと同様に、回復期リハにおいても評価の質の担保のために第三者評価の導入が望ましいとしたものです。今回は「望ましい」ですが、そのつぎは「義務化」という流れも想定し、準備をしておく必要があるといえるでしょう。


■療養病棟における嚥下機能回復への取組みを評価
続いて、療養病棟入院基本料における主な改定内容はつぎのとおりです。

①療養病棟の経過措置の見直し
・設置期間を2年延長、2024年3月31日まで
・点数を療養2の85%から75%へ

②経過措置の療養病棟で疾患別リハを提供する場合には月1回以上のFIM測定を要件化(未実施の場合は、①疾患別リハの上限を1日2単位まで、②医療区分2の患者であっても医療区分1として算定)

③中心静脈栄養を実施している状態にある患者について、「摂食機能又は嚥下機能の回復に必要な体制」を有していない場合は、 医療区分3ではなく医療区分2で算定

③の「摂食機能又は嚥下機能の回復に必要な体制」について、今回の3月9日の答申で内容が明らかになりました。

次のいずれも満たしていること。
ア 内視鏡下嚥下機能検査又は嚥下造影を実施する体制を有していること。なお、当該検査等については、耳鼻咽喉科又はリハビリテーション科その他必要な診療科を標榜する他の保険医療機関との協力により確保することでも差し支えない。
イ 摂食機能療法を当該保険医療機関内で実施できること。
ウ 毎年7月において、療養病棟入院料を算定している患者のうち、中心静脈栄養を実施している患者の数、終了した患者の数、嚥下機能療法を実施した患者の数及びアの他の保険医療機関との協力による体制の確保の状況等を様式5の7を用いて届け出ること。


また③に関連する項目として、摂食嚥下支援加算について、中心静脈栄養や鼻腔栄養等を実施している患者の経口摂取回復に係る効果的な取組みを推進する観点から、名称、要件及び評価が見直されました。名称を【摂食嚥下機能回復体制加算】として、加算1~3に細分化されます。

摂食嚥下機能回復体制加算3については、療養病棟入院料1又は2を算定する病棟を有する病院を対象とした加算となっています。

これらなどへの対応により療養病棟においても積極的に嚥下機能回復が取り組まれることが期待されているといえます。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定登録医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。