クリニック集患・増患における口コミの1番の発生源は?

クリニックに限らず、どんな業種・業態においても口コミは人の行動意欲に影響を与えます。また最近では、物やサービスを消費する際には必ずといっていいほど、SNSで検索してから意思決定がされます。SNS上の評価もとても重要であり、それも口コミの1つだといえます。今回は集患・増患対策における口コミについて、考えてみたいと思います。


■口コミが集患・増患に効果的な理由とは
クリニック集患・増患で最も強力な効果があるものといえば、「口コミ」です。また近年はSNSの利用者も拡がり、インターネット上の口コミも影響力が高いといえます。

では、なぜ口コミが効果的なのでしょうか。人間の行動心理学の側面から考えてみたいと思います。

1つは、人は「直接伝えられる情報よりも第三者による情報のほうが信じられやすくなる」傾向があるということです。特に1度経験・体験した第三者からの情報は、信頼度がグッと高まります。またその第三者が身近な方であったり、著名人であったりすると尚更です。この心理的効果を、「ウィンザー効果」といいます。

2つ目は、人の心理には「多くの人に人気があるもの・支持されているものをより一層支持する」といった傾向があると言われます。飲食店の行列に何時間かけても並ぶ人がいるのも、まさしくこの心理です。これを「バンドワゴン効果」といいます。クリニックも同様に、患者さんが少ないクリニックよりも多いクリニックの方が何となく安心感や信頼感を得やすくなります。なぜなら、地域の多くの住民が選んでいるのだから間違いないはず!きっといい先生なんだ!という心理が働くからです。

このような側面からは口コミは患者さんがクリニックを選ぶ際の意思決定に大きな影響を与えるといえます。


■ではなぜ口コミは起きるのでしょうか?
口コミが起きる要因は、患者さんの期待と実体験のギャップによるものです。

『患者さんの期待≦来院時の評価』であれば、患者さんはプラスの感情を抱き、良い口コミの発生源になる可能性があります。一方で、『患者さんの期待>来院時の評価』であれば、患者さんはマイナスの感情を抱いてしまい、悪い口コミが発生してしまう可能性があります。

そして「患者さんの期待」は、主に来院前につくられるというのポイントです。クリニックのホームページの印象や載せている内容、内装の雰囲気、院長先生のプロフィールや専門性、顔写真、SNS上の評価や口コミなど、こういった点から患者さんの期待はつくられていきます。

たまにホームページの見栄えや写真、載せている内容が素晴らしく信頼感を感じるクリニックにもかかわらず、来院してみるとホームページの印象とかけ離れているクリニックに出くわします。おそらく患者さんは、来院した時点で、このクリニックに対して「あれ?」という不安感を抱くはずです。もちろん院長先生の診察やスタッフの対応が素晴らしければそこで挽回も可能ですが、そうでない場合は患者さんの期待を下回り失望させることになりかねません。

来院前の患者さんにどんな期待を抱かせているか、そういった視点もクリニック経営には必要といえます。


■クリニックの評価は足し算ではなく掛け算
続いて、患者さんの来院時の評価についてですが、来院時の評価は、「受付+医師+看護師+薬剤師」の足し算ではなく「受付×医師×看護師×薬剤師」の掛け算により決まるという考え方があります。

つまり、院長先生が素晴らしい対応で患者さんから10点満点中10点で評価されたとしても、受付の評価が0点であればクリニックの評価は0点になってしまうということです。

ですから、クリニックの職員に対する教育や接遇といった点もとても重要になりますし、チームとしてきっちり機能しているクリニックは患者さんからの評価が高くなるということになります。


■口コミの1番の発生源
良い口コミは出来れば自然に発生してくれるのが1番良いですよね。よく意図的に口コミを起こすといった業者さんもいますが実態が伴っていなければ、一過性のもので終わってしまいます。ただ地域のイベントに参加したり、良い広告塔になり得る患者さんにPRするといった努力はとても大切です。

そこでよく見落としがちな点として大切なことは、1番の口コミの発生源は「誰か」ということです。

1番の口コミ発生源、それは当院の「職員」です。

最近よくエンゲージメントという言葉がよく使われますが、エンゲージメントとは簡単にいうと、従業員の組織に対する「愛着心」や「思い入れ」をあらわすものになります。

職員がクリニックに愛着心や思い入れをもってもらえたら、そこから良い口コミが発生する可能性は高いですし、友人同士の会話の中で「うちのクリニックとてもいいよ」「院長先生はすごいイイ人だよ」といった話が展開することも十分に考えられます。

一方で、職員からの評価が低いとそこから悪い口コミが発生することもあり得ます。よくあるケースとして、何かトラブルがあって職員を辞めさせてしまった場合に、職員はその地域に住んでいることがほとんどですので、そこから悪い評判が拡がってしまうことも往々にしてありますので注意が必要です。

繰り返しになりますが、良くも悪くも口コミの1番の発生源になり得るのは、当院で働いてくれている職員です。良い口コミを発生させたければ、職員のクリニックに対するエンゲージメントを高めるための仕掛けづくりをすることが、遠回りのようで1番の近道ではないでしょうか。

院長先生のクリニック経営のヒントになるものが、1つでもあれば幸いです。


---------------------------------------
◆筆者プロフィール
---------------------------------------
森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。