コラム
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オンライン診療を導入すべきか否か~患者調査を踏まえて~



2018年度にはじめてオンライン診療料が保険収載されました。その後2020年度に診療報酬改定が行われましたが、オンライン診療料に関してはそこまで大規模な改定はありませんでした。しかしこれとは別に,新型コロナウイルス感染症が大流行し,全国に緊急事態宣言が発せられる未曽有の事態が発生しました。これにより感染抑制など,さまざまな期待から「電話および情報通信機器による診療(オンライン診療)」に関心が集まっています。今回はそのオンライン診療に関して、厚労省で実施された患者調査(n=490名)の結果を紹介します。オンライン診療の導入を検討されている医療機関の一助になれば幸いです。

■受診経験ありは約10%、うち40%以上は60歳代以上

回答患者のうち、「オンライン診療受診経験あり」は47名であり、全体の10%未満でした。またそのうち、60歳代が14.9%、70歳代が12.8%、80歳代以上が14.9%で、60歳代以上で40%超の割合を占める結果となりました。よく医療機関の中には、自院の患者は「高齢者が多いからオンライン診療は受け入れられない」といった声を数多く聞きますが、この結果をみると、高齢者でもオンライン診療の需要はあることがうかがえます。

また「オンライン診療受診経験あり」の患者の95.7%が定期通院をしており、対面診療とオンライン診療を併用している患者がほとんどであることがわかります。さらに「オンライン診療受診経験あり」は10%未満でしたが、オンライン診療の認知度は、「知っている」が75.9%と、オンライン診療の受診経験ありは少ないものの、患者への認知度は高水準であるといえます。

■オンライン診療、受診理由のトップはコロナ感染予防

つぎに電話診療の受診理由についてです。「感染予防のため医療機関に行かない方がよいと思ったから」が63.8%と最も多く、次いで「その他の理由」が21.3%、さらに「感染予防のため医療機関に行かない方がよいと家族等からすすめられたから」と「外出自粛の要請の有無にかかわらず、自主的に外出を控えていたから」がそれぞれ14.9%という結果になっています。ここからも、新型コロナウイルスが患者の受診行動、意識に大きな影響を及ぼしていることがわかります。
逆にいえば、患者に来院してもらうためには感染予防の徹底が大切であり、感染予防を徹底していることを情報発信し、患者に安心感をもってもらえることが大切といえます。その点では、ホームページ上で「当院の感染予防対策」をのせている医療機関がありますが、その情報発信はとても有効であるといえます。
また「その他の理由」の内訳としては、「医師からすすめられたから」が最も多くなっています。

■オンラインでも十分な診療やコミュニケーション可能が多数

オンライン診療を受けた患者の感想として、危惧されている「対面診療と比べて十分な診察を受けられないと感じた」項目において、「そう思う」が31.9%に対して、「そう思わない」が55.3%、また「対面診療と比べて十分なコミュニケーションが取れないと感じた」項目では、「そう思う」が21.3%に対して、「そう思わない」が72.3%であり、患者からの印象としては、十分な診察やコミュニケーションを得ることができたと捉えている割合が高くなっています。さらに、「対面診療と比べて受診する時間帯を自分の都合に合わせられた」「待ち時間が減った」「リラックスして受診でき、症状などを話しやすかった」など、オンライン診療に前向きな意見が多い結果となりました。

一方で、「オンライン診療を受けたことがない理由」としては、「できるだけ対面での診療を受けたいと考えているから」が1番多く、次いで「オンライン診療雄必要性を感じたことがないから」「医師からオンライン診療を提案されたことがないから」が上位にきています。「できるだけ対面での診療を受けたいと考えているから」をさらに掘り下げてみると、「検査や処置がすぐに受けられるから」「病気に関する質問や相談がしやすいから」「医師等の話が聞きやすいから」などがあります。対面診療に対する安心感の高さがうかがえます。

さらに今後の受診でのオンライン診療に関する希望としては、「新型コロナウイルスの問題とは関係なく対面診療を受けたい」が30.2%、「新型コロナウイルスの感染が懸念される間オンライン診療を受けたい」が13.1%、「新型コロナウイルスの問題とは関係なくオンライン診療を受けたい」は7.3%で、対面診療を希望する患者が多いようです。しかし、それを上回る項目として「対面診療かオンライン診療かは医師の判断に任せたい」が34.3%で最も多くなっています。オンライン診療の活用も、医師の患者への提案次第といえそうです。

■患者視点で選択肢を増やしてあげる

オンライン診療を導入するか否か、迷われている医療機関も多いかと思います。今回の調査結果に関していえば、オンライン診療は患者にとって比較的ポジティブなものとして捉えられているように思います。とはいっても、依然として患者さんの対面診療への拘りは根強くあるといえます。今回のアンケート結果を踏まえると、新型コロナウイルスのような緊急事態時において、対面診療・オンライン診療をどちらでも選択することができる医療機関が、患者にとってはベストといえるのかもしれません。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。