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新型コロナの影響を受ける介護事業所、介護報酬改定に向けた動向に注目!

令和3年度介護報酬改定の時期が迫ってきています。コロナ禍の中ではありますが、議論は進められ、改定の論点も少しずつ見え始めてきています。今回のコラムでは、介護報酬改定に向けた改定率、各サービスの報酬改定内容を考える際の基礎資料となる介護事業経営実態調査結果などの内容について、一部ご紹介したいと思います。


■介護サービス、前年対比0.7ポイントの経営悪化

10月30日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会と、それに先立って開催された介護事業経営調査委員会では、「令和2年度介護事業経営実態調査結果」の報告がされました。

当調査は、各サービス施設・事業所の経営状況を把握し、次期介護保険制度の改正及び介護報酬の改定に必要な基礎資料を得るためのものであり、3年周期で行われています。そして今回は令和元年度決算が調査対象となっています。

介護事業所サービス全体の収支差率【(介護サービスの収益額- 介護サービスの費用額)÷介護サービスの収益額】をみると、令和元年(2019年)度が2.4%で、前年度3.1%よりも、0.7ポイント悪化している傾向がわかります。

主なサービス別に収支差率をみると、訪問看護は、0.2ポイント改善し4.4%、福祉用具も0.5ポイント改善し4.7%となっています。一方で、サービス全体平均の0.7ポイント以上悪化している主なサービスは以下のとおりです。

・老健:1.2 ポイント悪化、2.4%
・介護療養型医療施設:1.2ポイント悪化、2.8%
・訪問介護:1.9ポイント悪化、2.6%
・訪問リハ:0.8ポイント悪化、2.4%
・通所リハ:1.3ポイント悪化、1.8%
・居宅介護支援:1.5ポイント悪化、△1.6%
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護:2.1ポイント悪化、6.6%
・看護小規模多機能型居宅介護:2.6ポイント悪化、3.3%

主な悪化の要因として、厚生労働省の資料では、人材の確保が課題となる中での人件費増、委託費の増などが考えられるとしています。サービスごとに見ても収支状況の悪化が目立ち、特に居宅介護支援事業所については経営の厳しい状況が続いている状況です。

出典:第190回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
【資料1】令和3年度介護報酬改定に向けた各種調査の公表について


■新型コロナ、とりわけ通所系サービスに甚大な影響

続いて、介護サービス事業所における新型コロナウイルスの影響についても、調査結果が報告されました。当調査では、収支の状況や支出全体の変化などを、コロナ流行前と比較しています。

収支の状況について、コロナ流行前と比較して「悪くなった」と回答した事業所の割合は、5月で47.5%、10月で32.7%となっています。サービス別にみると、5月に「悪くなった」と答えた事業所は、とりわけ通所介護(72.6%)・通所リハ(80.9%)などの通所系サービスで高い傾向にあります。1事業所あたりの利用者数をみても、通所介護や通所リハ、また短期入所の利用者が大きく減少しています。
また10月に「悪くなった」と答えた事業所は、通所系サービスよりも老健の割合が50.2%と高い傾向にあります。比較的、老健施設の方が新型コロナの影響を長く受けていることがみてとれます。

また支出全体の変化については、コロナ流行前と比較して「増えている」と回答した事業所割合は、5月で54.7%、10月で53.3%。その中身としては、主に衛生用品に係る経費(マスク、消毒液など)が増加しているとほとんどの事業所が回答している。一方で、人件費やその他の費用については、「変化なし」もしくは「減少している」と答えた事業所割合が多くなっています。

出典:出典:第190回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
【資料1】令和3年度介護報酬改定に向けた各種調査の公表について


先程の「介護事業経営実態調査」には、こういった新型コロナの影響は含まれていません。介護報酬改定を検討するうえで、こういった新型コロナの影響をどのように勘案していくのかも重要な論点となりそうです。


■まとめ

調査結果からわかるとおり、介護事業所は決して利益率が高い事業ではありません。その中で、新型コロナウイルスの影響もあり、医療機関同様に経営が厳しい事業所が増えていることは容易に想定されます。だからといって、「報酬の引き上げ」というような単純なものではありませんが、介護事業所の厳しい経営状況をどのように介護報酬改定に反映させるのか、今後の論議に注目していく必要があります。また今回の改定では、分野横断的なテーマの1つとして「感染症や災害への対応力強化」が新たに追加されていますので、これもどのような形で改定に盛り込まれるのかも、合わせて注視しておく必要があるといえるでしょう。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

初診からオンライン診療」の原則恒久化に向け検討開始!コロナ感染症をきっかけにオンライン診療の普及は進むのか?

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、ここ数ヶ月注目が集まっている「オンライン診療」。臨時特例措置で初診患者の算定も可能となりましたが、今後は臨時特例措置でなく、恒久的な新たな診療体制の1つの形態とするといった方向性が政府より打ち出されました。これに対して医療側からは、安全性の観点から慎重に進めるべきとの意見も出ています。新型コロナウイルス感染症をきっかけに、今後オンライン診療は一気に広がりをみせるのでしょうか。今回はそのオンライン診療について取り上げたいと思います。


2020年度診療報酬改定でどう変わった?

最初に、2020年改定でオンライン診療がどのようなに改定されたのかを確認したいと思います。まずはオンライン診療料の事前対面診療に係る要件についてです。事前の対面診療の期間が「半年」から「3ヶ月」に緩和されました。

また算定要件と施設基準の部分について緊急時の対応に係る要件の見直しがありました。改定前は作成する診療計画の中に、「患者の急変時における対応等も記載する」との要件がありました。さらに施設基準において「緊急時の対応を行うにつき必要な体制が整備されていること」「緊急時に概ね30分以内に当該保険医療機関が対面による診察が可能な体制を有している」ということが求められていました。これがクリニックなどでオンライン診療料を届出るための高いハードルの1つとなっていました。

しかし改定により、施設基準から「緊急時に概ね30分以内」などが削除され、患者の急変時等の緊急時には、原則、当該医療機関が必要な対応を行うとし、「やむを得ず対応できない場合については、患者が速やかに受診できる医療機関において対面診療を行えるよう、事前に受診可能な医療機関を患者に説明した上で、当該計画の中に記載しておくこととして差し支えない」という文言に変わりました。

つまりは、夜間などの対応については病院などとの連携により対応できれば施設基準がクリアできることになります。これにより、これまでの超えるには高かったハードルが低くなったのです。さらには、対象疾患も拡大されました。このように改定前後で、オンライン診療料はより算定しやすくなったといえます。オンライン診療を普及させたい国のねらいが見て取れるのではないでしょうか。


新型コロナの時限的措置で初診から算定可能に

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、さまざまな項目で診療報酬の臨時的・特例的な取り扱いが通知されました。ご存知のとおりオンライン診療もその対象となりました。

オンライン診療に関しての1番のトピックスは、4月10日通知の「初診時も含めオンライン診療・電話診療の時限的容認」ではないでしょうか。これにより、これまで安全性などの観点からオンライン診療は「初診対面」を原則としていましたが、初診患者に対しても行えるようになりました。通常の初診料は「282点」に対して、オンライン診療の初診では「214点」が算定可能となりました。

また医薬品を処方した場合は「処方料」(42点)や「処方箋料」(68点)を算定でき、現在受診中の患者について別の症状で診療を実施した場合はこれまで通り「電話等再診」(73点)を算定することができます。

ここで注目したい点は、ビデオ通話機能などを有したいわゆるオンライン診療システムを使う必要はないということです。多くの医療機関や患者が活用できるように、電話やFAX、スカイプなどの通信手段による診療でも算定ができることとなりました。


「初診からオンライン診療」を原則恒久化に向け検討へ

こういった流れの中、10月9日の記者会見で田村厚生労働大臣は、初診患者からのオンライン診療を解禁とし、新型コロナウイルス感染症を踏まえた臨時特例措置でなく、恒久的な新たな診療体制の1つの形態とすることを明らかにしました(原則、映像伴うものを対象とする)。詳細な制度設計はこれからの検討事項としながらも、オンライン診療拡大の方向性は明確に打ち出されています。デジタル庁の創設など、菅新内閣では医療分野に限らず、いろいろな意味でデジタル化の流れが加速することが想定されます。


コロナ禍でオンライン診療は進んだのか?

国としては、オンライン診療を普及させたいねらいが見て取れるものの、実際の普及率はどうでしょうか。たとえば、板橋区医師会のアンケートによると、電話再診やオンライン診療を行っている施設は全体の51.5%で、残りの48.5%は電話再診もオンライン診療も行っていないとの調査結果があります。各団体でさまざまはアンケートや調査が実施されていますが、概ね同じような傾向を示しており、まだまだオンライン診療は定着していないことがうかがえます。

では、オンライン診療が定着しない要因は何でしょうか?定着するためには、いくつかのハードルを越えていく必要があると考えます。大きくわけて「診療面」と「経営面」に分類できるかと思います。

【診療面におけるハードル】
・「対面診療の補完的位置づけ」との認識が強い
・オンラインだけでは患者の状態を把握するのは困難(特に初診に関して)
・オンラインで診れる疾患が限定される など

【経営面におけるハードル】
・導入・運用コストがかかる
・診療報酬上の点数が対面より低く、費用対効果が不明確
・医療従事者や患者に対する操作方法の周知や浸透が難しい
・個人情報保護等の情報セキュリティが不安 など


まとめ

このようにオンライン診療を普及させるためには、いくつか超えなければならないハードルがあるように思います。今回は医療機関内での感染防止という観点から、オンライン診療の必要性が増しましたが、わが国ではまだまだ「医療は対面」という意識が医師側だけでなく患者側にも根強くあると思われます。オンライン診療の普及には患者の意識を変えていく必要もあるでしょう。

オンライン診療はあくまでも、医療サービスが必要な患者に適切に医療を届けられるようにするためのツールです。医療のフリーアクセスという観点からいえば、今回のような非常事態にも患者が速やかに受診できるように、平時から対面診療とオンライン診療をふつうに選択できるような状況が理想といえるのかもしれません。


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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

受診不安約70%の中での医療機関の経営を考える

日本医師会は7日に、医療に対する意識調査の結果を公表しました。その結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響で「医療機関の受診が不安」「やや不安」と答えた人が合計で69.3%に上ったそうです。

この結果が示すように、患者数はコロナ前よりも激減している医病院やクリニックがほとんどです。それに伴い、医療機関の経営も厳しさを増しています。

1日も早く、この心理的な不安からくる「受診控え」が解消され、患者数が戻ってきてほしいと願う医療機関の経営者は多いと思います。

ではこの「受診控え」が解消されれば、患者数は以前と同じ水準まで戻ってくるでしょうか?

個人的な見解としては、「受診控え」が解消されても、「医療機関の努力なし」ではコロナ前の水準まで戻すことは難しいと考えています。


■セルフメディケーション意識の向上

セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」です。

手洗い・うがい・消毒がこんなに定着したことは、これまでにあったでしょうか。インフルエンザの時期でさえ、ここまでやっていなかった人がほとんどではないでしょうか。僕はその1人です。

我が家でも、消毒液がルーティンのように設置されています。子どもに触る前は、それで消毒してからでないと、触らせてもえません…。

いったん定着したこのセルフメディケーションの意識は今後も根強く残っていくと考えられます。


■出勤などによる人との接触機会の減少

このコロナの影響で働き方改革が加速しました。特にリモートワークが当たり前になりました。それにより会社通勤がなくなり、朝の電車の混雑状況もだいぶ緩和されています。最近は東京の人口動向では、流入よりも流出の方が多いそうですね。

これによりコロナに限らずいろいろな感染症の感染要因の1つである人との物理的な接触機会が減少することになります。つまりは、風邪などにかかる確率はグッと下がるのではないでしょうか。


これらにより一般内科などのクリニックでは特に、患者数に影響がでてくることは容易に想定ができます。


■これまでが過剰医療だった?

一方でこんな見方もあります。これまでの医療提供が過剰であったのではないかというものです。

日本の医療はフリーアクセス制で、誰でも気軽にリーズナブルに医療提供を受けることができます。これは日本が誇る素晴らしい制度である一方で、医療機関への受診の敷居が低くなっているのではないかと考えられます。

すると、どういうことが起きるか。

気軽いけがでも風邪でも大病院に行ってしまうわけです。大病院では1日の外来患者数が5,000人などというすごいところが出てきてしまい、医療従事者への負担が大きくなってしまうのです。

日本の医療資源も無限ではありません。限られた医療資源の中で、医療が必要になったときに、適切に医療サービスを届けられるようにするためには、国民の受診行動を変える必要があったのかもしれません。

今回のコロナにより受診の敷居が高くなったという側面があるのかもしれません。ある意味、これは効率的な医療提供という面では、国の医療制度改革で求めていることともいえます。


■現状を前提とした医業経営を

このように国民の医療機関への受診行動は、コロナ前後で大きく変わったまま維持されるという見方をしておいた方が、よりベターだと個人的には考えます。

ですので、医療機関としては、現在の経営環境を前提とした中でも経営を成り立たせる準備が必要と言えるでしょう。

厳しい環境下ではありますが、コロナにより変化しなければならない状況をチャンスと捉えていく、ポイジティブさが必要かもしれません。


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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

日本社会における2大テーマの最新版が公開

我が国、日本で取り組まなければいけない2大テーマとして、「人口減少」と「高齢化」があります。今回はその2つの最新データが公表されましたので、そちらについてまとめておきたいと思います。

13年連続、自然増減数は減少傾向

厚生労働省が9月17日に、2019年の「人口動態統計(確定数)の概況」を公表しました。

この調査は、人口動態事象を把握し、人口及び厚生労働行政施策の基礎資料を得ることを目的としておこなわれているものです。一般的に、人口が拡大する国は成長傾向にあるといえますし、縮小する国は何をしても頭打ちになると考えられますので、この人口動態統計は医療・介護に限らず、かなり重要な調査といえます。

では、その人口動態統計が最新のデータではどうなったのか?簡単に触れていきたいと思います。

・出生数は5万人減少

2019年の出生数は86 万5239 人で、前年の91 万8400 人より5 万3161 人減少しています。4年連続で過去最少を記録しており、1899年の統計開始以来初めて、90万人を割り込むという数字になっています。また出生率(人口千対)も7.0 で、前年の7.4 よりも低下しています。

さらに、「1人の女性が一生の間に生む子供の数」に相当する合計特殊出生率を見ると「1.36」で、前年の1.42から0.06低下しました。

・死亡者数は増加

その一方で、死亡者数は138 万1093 人で、前年の136 万2470 人より1 万8623 人増加し、死亡率(人口千対)は11.2 で前年の11.0 より上昇しています。

・自然増減数は減少

出生数と死亡数の差である自然増減数は△51 万5854 人で、前年の△44 万4070 人より7 万1784 人減少しています。また自然増減率(人口千対)は△4.2 で前年の△3.6 より低下しています。数・率ともに13 年連続で減少・低下した結果となっています。

高齢化率は28.7%まで上昇


つづいて高齢化についても最新データをみていきましょう。

高齢化については、総務省が「敬老の日」(9月16日)を迎えるに当たって、「統計からみた我が国の高齢者―『敬老の日』にちなんで―」を公表しました。こちらの資料には、高齢者の人口や高齢者の就業についてレポートされています。

・高齢者数と率は過去最高値

最新の統計値として日本の高齢者(65歳以上)数は3617万人(2020年9月15日現在)となっています。

前年の3587万人と比較すると、高齢者数は30万人増加したことになります。高齢者の増加ピークとなる「団塊の世代」(1947年~1949年生まれ、第一次ベビーブーム期)のうち最後の年となる1949年(昭和24年)生まれの人が高齢者層に仲間入りした2014年では同一基準で前年比110万人も増加したが、それと比べると前年比の増加数は少なくなっています。

また高齢化率は2013年では初めて、総人口に占める高齢者の割合が25.0%を超えて以来上昇し続け、2020年は28.7%にまで上昇しました。数・総人口比ともに過去最高の値となっています。

当資料によると、総人口は29万人減少したにもかかわらず、高齢者は30万人増加しており、生産年齢層人口の減少がみてとれます。

・日本の高齢者就業率は主要国2位

一方で、高齢就業者数は16年連続で増加し、892万人と過去最多となり、就業者総数に占める高齢就業者の割合は、13.3%と過去最高となっています。就業者の7.5人に1人が65歳以上高齢者であり、会社や組織にとって、貴重な戦力であることがわかります。

世界の主要国と比較すると、日本の高齢者就業率は24.9%で、韓国の32.9%に次いで高くなっています。アメリカ合衆国は19.6%、カナダは14.3%、イギリス10.7%、ドイツ7.8%などと続きます。日本の高齢者の就業率は、主要国の中でも高い水準にあるといえます。

2つの視点から見直すきっかけに


今回は「人口減少」と「高齢化」について、最新データが公表されましたので、それについて簡単にまとめさせていただきました。

医業経営の視点で考えると、人口構成の変化は「疾病構造の変化」に直結します。仮に自院の提供する医療サービスが地域の疾病構造と合致しないのであれば、現在提供している医療サービスなどを見直しする必要性がでてくるかもしれません。

また働き手の確保という点からも、少子高齢化の中で競争がより激しくなってきますので、求職者にとって魅力的な医療機関にならなければ選んでもらえなくなることは想像に難しくありません(現時点でもそうである地域は多い)。

患者(医療介護ニーズ)と職員(求職者のニーズ)の両方の視点が必要といえるでしょう。「2つの視点において自院はどうか?」見直す1つのきっかけになれば幸いです。

引用元
厚労省:令和元年(2019)人口動態統計(確定数)の概況
総務省:統計トピックスNo.121 統計からみた我が国の高齢者


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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

2021年3月スタート!オンライン資格確認の導入で何が変わる?

2021年3月より、医療保険の「オンライン資格確認」が開始されます。

■オンライン資格確認とは?

医療機関や薬局では、受付の際に患者が加入している医療保険を確認する必要があります。この作業を「資格確認」と呼びます。オンライン資格確認とは、この資格確認作業を、マイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号等により、オンラインで資格情報の確認ができることをいいます。

■導入によるメリットは?


これまでの資格確認作業は、患者の健康保険証を受け取り、記号・番号・⽒名・⽣年⽉⽇・住所などを医療機関システムに入力する、というものでした。この方法では「入力の手間がかかる」「患者を待たせてしまう」などの難点がありました。資格確認をオンライン化することにより、こういった医事業務の簡素化に繋がるなどといったメリットがあるといえます。では具体的にはどんなメリットが考えられるでしょうか。

①保険証の入力の手間削減
今までは受付で健康保険証を受け取り、保険証記号番号、氏名、生年月日、住所等をレセコンに手入力する必要がありました。オンライン資格確認を導入いただければ、マイナンバーカードでは最新の保険資格を自動的に医療機関システムで取り込むことが可能となります。
また保険証でも、最小限の入力は必要ですが、有効であれば同様に資格情報を取り込むことができます。

②資格過誤によるレセプト返戻の作業削減
オンライン資格確認を導入いただければ、患者の保険資格がその場で確認できるようになるため、資格過誤によるレセプト返戻が減り、窓口業務を削減することができます。また再申請できないことによる未収金の削減にもつながる可能性があります。

③来院・来局前に事前確認できる一括照会
一括照会では、事前に予約されている患者等の保険資格が有効か、保険情報が変わっていないかを把握することができます。なお、確認した保険資格が資格喪失等により無効である場合、
受付時に資格確認を行う必要があります。

④限度額適用認定証等の連携
これまで限度額適用認定証等は患者が保険者へ必要となった際に申請を行わなければ、発行されませんでした。オンライン資格確認を導入いただければ、患者から保険者への申請がなくても、患者の同意を得た場合は限度額情報を取得でき、患者は限度額以上の医療費を窓口で支払う必要がなくなります。

⑤薬剤情報・特定健診情報の閲覧
オンライン資格確認を導入いただければ、患者の薬剤情報・特定健診情報を閲覧することができます。患者の意思をマイナンバーカードで確認した上で、有資格者等(薬剤情報は医師、歯科医師、薬剤師等。特定健診情報は医師、歯科医師等)が閲覧します。
また薬剤情報・特定健診情報の閲覧は、通常時は本人がマイナンバーカードによる本人確認をした上で同意した場合に限られますが、災害時は特別措置として、マイナンバーカードによる本人確認ができなくても、薬剤情報・特定健診情報の閲覧ができることになっています。
ちなみに特定健診情報は2021年3月から、薬剤情報は2021年10月から閲覧可能となります。

■導入するためには?


医療機関や薬局がオンライン資格確認をはじめるためには、主に「資格確認機器」「資格確認端末」「顔認証付きカードリーダーソフト」などが必要になってきます。そこで国では、オンライン資格確認の導入に向けて医療情報化支援基金を創設し、医療機関・薬局のシステム整備の支援することを公表しています。

その一部ご紹介をすると、顔認証付きカードリーダーについては、病院には3台まで、クリニックや薬局には1台まで無償提供されるようです。

★医療機関や薬局への支援はこちらをご確認ください。↓
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/000619625.pdf

■最後に


医療事務における資格情報の確認は、毎回入力しなければならず、医事業務における大きな負担となっています。また医療機関のクレームで最も多い内容である「待ち時間の長さ」についても、オンライン資格確認を導入することにより、短縮される可能性があります。これは患者満足度に直結しますので、大きなメリットといえます。

さらに、職員にとっても入力する時間が減るだけでなく、入力間違いや返戻業務の負担が減少するため、残業時間も減り、働き方改革につながるとも考えられます。

こういった点からも、オンライン資格確認は導入するメリットは十分にあると思われます。

より詳しい内容は、医療機関・薬局向け専用ポータルサイトが開設されていますので、ぜひそちらを一度ご覧いただくことをおすすめします。

★医療機関・薬局向け専用ポータルサイト
https://www.iryohokenjyoho-portalsite.jp/


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病院・クリニックが軒並み経営悪化!医業経営に与えたコロナの影響を考える

緊急事態宣言が解除されて3ヶ月が経過しようしています。しかし新型コロナウイルスによる影響はおさまることはなく、むしろ拡大していっているように感じられます。その影響は医療機関の経営にも顕著に表れており、経営困難による地域医療の崩壊といった最悪のケースも想定される事態といえます。

病院は軒並み経営悪化、賞与も約3割が減額・不支給

8月6日に公表された、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第1四半期)」結果によると、賞与支給状況について、調査回答病院1,459病院のうち、71.3%が「満額支給」、27.2%が「減額支給」、0.8%が「支給なし」と回答しています。これはご承知のとおり、新型コロナウイルスによる経営収支の悪化によるものと考えられます。

賞与の減額や不支給は、職員のモチベーションの低下や退職につながりかねません。特に病院は人ありきの組織ですので、職員の退職などが病院運営に与える影響は大きいといえます。

また有効回答全病院、コロナ患者入院未受入病院、コロナ患者入院受入・受入準備病院の3区分での経営指標を比較では、コロナ患者受入れの有無にかかわらず、昨年よりも経営が悪化していることがわかります。特にコロナ患者入院受入・受入準備病院の経営悪化は著しく、医業利益率がマイナス10%以上となっています。

参照資料:「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第1四半期)」

このような状況を鑑みて、各団体などからは政府に対する緊急的な経営支援が必要であると強く要望しています。では続いてクリニックの状況はどうでしょうか?

耳鼻・小児科クリニックは突出して経営悪化

クリニックについては、東京保険医協会の「第3回新型コロナウイルス感染症による医業経営への影響【緊急アンケート】 速報まとめ 無床診療所(一般診療所)調査結果概要」をもとにみていきたいと思います。

調査結果によると、有効回答930施設のうち、6月上旬の外来患者数が、前年同期と比べて「減った」と回答した施設は90.0%であり、4月の94.1%よりは低いものの、まだまだ患者数は戻っていない状況がうかがえます。また減少割合も「3割減24.8%」「4割減15.8%」「5割以上減27.2%」となっており、その割合も4月上旬とはそれほど大きく変わっていません。保険診療収入についても同様の傾向があり、状況が良化しているとはいえません。

次に保険診療収入が著しい診療科別にみてみましょう。特に耳鼻咽喉科や小児科の患者減少が大きく、「5割以上減」がそれぞれ77.3%・65.9%と突出しています。これらは受診による感染リスクを避けるために、親が子どもの受診を控えさせているといった見方ができます。特に小児科については、一部負担が無料のためこれまで気軽に受診していた患者が受診を控えるようになったことや、学校の休校などの影響も大きいと考えられます。

資料:「第3回新型コロナウイルス感染症による医業経営への影響【緊急アンケート】 速報まとめ 無床診療所(一般診療所)調査結果概要」をもとに筆者作成
コロナ後の経営環境はどう変化するか

これまでのとおり、コロナ禍における病院やクリニックの経営は非常に厳しくなっています。ではコロナ後はいったいどうなっていくのでしょうか?コロナ患者の受入や受入準備の影響により収支が圧迫されている病院であれば、コロナ収束後、経営は改善されるかもしれません。しかしそうではない医療機関、たとえば地域において比較的軽度な急性期医療を担っている病院やクリニックなどでは、受診控えなどといった患者の受診行動の変化の影響を大きく受けているといえます

この患者の受診行動の変化は、一時的なもので元にすぐ戻るという見方もありますが、そうでない見方もあります。それは、これまでが過剰の医療提供だったという見方です。この見方も一理あり、当社のクライアントのいくつかの病院では、急性期病棟の稼働率は低いが患者単価は高まっており、入院収入としては維持している施設があります。1つの見方として、これは本当に急性期治療が必要な患者しか入院してきていないという風に考えることもできます。ある意味、医療機関にかかる敷居が、入院外来問わず、高くなっていると捉えることもできます。

またさらに今回の感染予防意識が、今後も国民の意識に根強く残るとすれば、インフルエンザなどの感染症の病気にかかる頻度も少なくなるといったことは想定できます。

この答え合わせはある程度の長い年月が必要になりますが、いずれにせよ、国民の受診に対する意識や行動がコロナ後どのように変化するのか、医療機関の経営者は注視していく必要があるといえるのではないでしょうか。


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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

組織内コミュニケーション活性化の第一歩とは

組織を引っ張っていくリーダーの役割として、「メンバーの能力を如何に引き出してあげるか」、これはとても重要な事項の1つです。個々のメンバーが適材適所で業務にあたり、最高のパフォーマンスを発揮していくことが組織力の向上に繋がります。

これは、一般企業だけでなく、病院やクリニックにおいても同様のことがいえます。

組織における仕事の成果は、組織内のコミュニケーションによる影響が大きいと言われます。
特にリーダーのコミュニケーションにより、メンバーの仕事に対するモチベーションや職場の雰囲気が変わります。そしてそのコミュニケーションの取り方は、相手によって、変えていくことが理想的です。

たとえば、リーダーから、
「よくやったな!君は天才的だな!」
と褒められた場合、いかがでしょうか。

単純に「嬉しい」とポジティブに受け取る方もいれば、「馬鹿されている」とネガティブに受け取る方もいらっしゃいます。

同じように接しても、相手によって受け止め方が全然違います。

それは人によりコミュニケーションスタイルが異なるからだと考えられています。

コミュニケーションスタイルのタイプとして、個人や組織のパフォーマンス向上のためのコミュニケーションスキルである「コーチング」の事例を紹介します。

コーチングの考え方の1つとして、人のコミュニケーションスタイルを、「コントローラー」「プロモーター」「サポーター」「アナライザー」の4つのタイプに分類できると言われています。(株式会社コーチ・エィの「タイプ分け」を引用)

それぞれのタイプには以下のような特徴があるとされています。

【コミュニケーションスタイルのタイプ別の特徴】
■コントローラー

行動的で、自分が思った通りに物事を進めることを好むタイプ。過程よりも結果や成功を重視する。また他人から指示されることを何よりも嫌う。

【適した役割】
自分が物事を判断し、スピード感を持っているため、リーダーシップを取る役割に適する。

■プロモーター
注目されることがとにかく好きなタイプ。話の中心に自分がなったり、周囲から最上級の表現で褒められるなど、自分にはっきりと周りから関心の目が向けられている状態を好む。

【適した役割】
人に影響を与えることを好み、明るく目立つため、新しいことを始めることや多くの人の協力を得ることが必要な役割に適する。

■サポーター
人を援助することを好み、協力関係を大事にするタイプ。周囲の人の気持ちに敏感で気配りにも長けている。自分自身の感情は抑えがちで、人から認めてもらいたいという欲求も強い。

【適した役割】
人との合意を得たり、協力する傾向が強いため、サブリーダーやコーディネーターなどの役割に適する。

■アナライザー
行動の前に多くの情報を集め、分析・計画を立てるタイプ。物事を客観的に捉えるのが得意。また完全主義的なところがあり、ミスを嫌う。人との関わりは慎重で、感情をあまりに外側に表さない。

【適した役割】
物事の正確性や細部にわたることへの関心が高いため、調査、分析、アドバイザーなどの役割に適する。


もちろんこの4つにすべてが当てはまるということではありません。あくまでも統計上の傾向になります。またどのタイプに優劣があるということでもありません。ただタイプを知り理解することは、コミュニケーションの質がグッと高まることに繋がります。

もしかしたら、コミュニケーションがうまく図れず本来の力を発揮できていなかったメンバーが、接し方を変えるだけでパフォーマンスが上がることも大いに考えられます。

日々一緒に仕事をする中で、メンバーのコミュニケーションスタイルを把握し、その人の価値観にあった接し方を心がけることも、組織を束ねるリーダーのスキルの1つです。

メンバーの最高のパフォーマンスを引き出すに、まずは相手のコミュニケーションスタイルを知ることから始めてみることをおすすめします。


参考図書
「4つのタイプ コーチングから生まれた熱いビジネスチームをつくる」
鈴木義幸 著

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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。

クリニック経営で抑えておくべき2つの数字

前回のコラムでは、「クリニック集患・増患における口コミ」について、書かせていただきました。今回もクリニック経営関連ということで、開業後、クリニック経営をするうえで特にチェックしておくべき2つのポイントについて解説させていただきます。

結論からいいますと、その2つとは、「キャッシュフロー」と「来院頻度」です。

クリニック経営を安定化させるためには、この2つの推移が非常に大切です。ですので、毎月欠かさずチェックを行い、その推移によっては対策を練っていく必要があります。


■ 利益とキャッシュフローの差は?

「黒字倒産」という言葉をご存知でしょうか?
利益が出ているにもかかわらず、事業が破綻してしまう状態をいいます。

ではなぜそのようなことが起こるのでしょうか?
その要因は、「資金繰り」=「キャッシュフロー」です。

どんなに売上が上がって利益が出ていようとも、キャッシュフローが回っていないと事業は破綻します。逆に、もし収支がマイナスで赤字が続いても、手元にキャッシュが確保できれば事業を継続することは可能です。

そのため経営にあたっては、利益とキャッシュフローの関係性を十分理解しておくことが重要となってきます。

では、そのような事態を生じる要因はどこにあるのでしょうか?

主には、「医業未収金」と「設備投資や未使用在庫」の2つです。

クリニックにおいては保険収入が収入源の主となりますが、この診療報酬は診療から入金まで最長で約3ヶ月のタイムラグがあります。つまり売上として計上されていても、キャッシュとして入金されるのは3ヶ月後(窓口収入以外)になります。つまりは、その間に生ずる様々なコストは窓口収入を含む手元資金で賄わなければなりません。

また設備投資については、毎月の費用としては減価償却費として耐用年数に合わせて按分され費用計上されます。しかしながら、実際の支払い(お金が出ていく)タイミングは、それとは異なるわけです。未使用在庫も同様に、購入して対価を支払っても、資産として計上されますが費用には計上されません。

これら2つの要因により、利益とキャッシュフローに差が生じるわけです。

特に開業当初は、要注意です。設備資金の返済金額やリースの利率などは気にするものの、返済タイミングや支払期間等を考慮していないケースも往々にしてみられます。そうすると、利益は出ているものの、開業当初のキャッシュフローが一気に悪化して、いきなり運営がピンチという事態も考えられます。

ですので、クリニックを経営される先生方には、利益も大事ですが日々のキャッシュフローの状況を把握することが何よりも大切です。

ただ診療で忙しい院長がそれらをすべて把握しておくことはとても難しいかもしれません。そういった場合には、顧問税理士や外部パートナーに毎月資金繰り表を説明してもらうなどしながら、自らの目でキャッシュフローを確認していくことをおすすめします。


■ 患者数を安定させるためには来院頻度

クリニック経営でよく使われる公式として、以下のものがあります。

「年間医業収入」 = 「新規患者数」 × 「診療単価」 × 「来院頻度」

つまり医業収入を増やすためには、上の3つの項目の数字を上げていけばいいことになります。

この3つのうち、特に見落としがちで、重要視していただきたいのが、「来院頻度」です。その理由は主に2つあります。

①クリニックへのファン度合いがわかる
繰り返して来院してくれるということは、患者さんがクリニックのファンになってくれたということになります。一方で、病気やケガなどが治っていないのに通院をやめてしまう患者さんは、来院しなくなる理由はさまざまありますが、その背景には医師の診察や医療スタッフの応対など、サービスへの不満がある場合も少なくありません(診療科や疾患により異なる場合はありますが)。その要因を把握し修正することで患者数の安定化につながります。患者数を安定させるためには、地域住民のクリニックへのファン度合いをチェックすることは大切です。

②集患のためのコストが小さい
まだ見ぬ新しい患者さんをクリニックに来院してもらうためには、看板や広告などの費用がかかってきます。しかもその効果の検証もしづらいのが実際のところではないでしょうか。一方で1度来院してくださった患者さんであれば、アプローチ対象も明確ですし集患にかかるコストが小さくて済むのです。そういった面でも患者さんごとの適正来院頻度を把握して、必要に応じてケアしてあげることは経営面で費用対効果は高いといえます。

まずは直近3ヶ月から6ヶ月のカルテをチェックし、継続的に通院していたのに、急に来院しなくなった患者さんがどれだけいるか、抽出してみると、患者さんの来院頻度の実態をつかむことができます。

今回は、「キャッシュフロー」と「来院頻度」というクリニック経営でチェックすべき2つのポイントについてお伝えさせていただきました。まだチェックできていないと思われる院長先生は、ぜひこれから定期的にチェックされることを強くおすすめします。

クリニック集患・増患における口コミの1番の発生源は?

クリニックに限らず、どんな業種・業態においても口コミは人の行動意欲に影響を与えます。また最近では、物やサービスを消費する際には必ずといっていいほど、SNSで検索してから意思決定がされます。SNS上の評価もとても重要であり、それも口コミの1つだといえます。今回は集患・増患対策における口コミについて、考えてみたいと思います。


■口コミが集患・増患に効果的な理由とは
クリニック集患・増患で最も強力な効果があるものといえば、「口コミ」です。また近年はSNSの利用者も拡がり、インターネット上の口コミも影響力が高いといえます。

では、なぜ口コミが効果的なのでしょうか。人間の行動心理学の側面から考えてみたいと思います。

1つは、人は「直接伝えられる情報よりも第三者による情報のほうが信じられやすくなる」傾向があるということです。特に1度経験・体験した第三者からの情報は、信頼度がグッと高まります。またその第三者が身近な方であったり、著名人であったりすると尚更です。この心理的効果を、「ウィンザー効果」といいます。

2つ目は、人の心理には「多くの人に人気があるもの・支持されているものをより一層支持する」といった傾向があると言われます。飲食店の行列に何時間かけても並ぶ人がいるのも、まさしくこの心理です。これを「バンドワゴン効果」といいます。クリニックも同様に、患者さんが少ないクリニックよりも多いクリニックの方が何となく安心感や信頼感を得やすくなります。なぜなら、地域の多くの住民が選んでいるのだから間違いないはず!きっといい先生なんだ!という心理が働くからです。

このような側面からは口コミは患者さんがクリニックを選ぶ際の意思決定に大きな影響を与えるといえます。


■ではなぜ口コミは起きるのでしょうか?
口コミが起きる要因は、患者さんの期待と実体験のギャップによるものです。

『患者さんの期待≦来院時の評価』であれば、患者さんはプラスの感情を抱き、良い口コミの発生源になる可能性があります。一方で、『患者さんの期待>来院時の評価』であれば、患者さんはマイナスの感情を抱いてしまい、悪い口コミが発生してしまう可能性があります。

そして「患者さんの期待」は、主に来院前につくられるというのポイントです。クリニックのホームページの印象や載せている内容、内装の雰囲気、院長先生のプロフィールや専門性、顔写真、SNS上の評価や口コミなど、こういった点から患者さんの期待はつくられていきます。

たまにホームページの見栄えや写真、載せている内容が素晴らしく信頼感を感じるクリニックにもかかわらず、来院してみるとホームページの印象とかけ離れているクリニックに出くわします。おそらく患者さんは、来院した時点で、このクリニックに対して「あれ?」という不安感を抱くはずです。もちろん院長先生の診察やスタッフの対応が素晴らしければそこで挽回も可能ですが、そうでない場合は患者さんの期待を下回り失望させることになりかねません。

来院前の患者さんにどんな期待を抱かせているか、そういった視点もクリニック経営には必要といえます。


■クリニックの評価は足し算ではなく掛け算
続いて、患者さんの来院時の評価についてですが、来院時の評価は、「受付+医師+看護師+薬剤師」の足し算ではなく「受付×医師×看護師×薬剤師」の掛け算により決まるという考え方があります。

つまり、院長先生が素晴らしい対応で患者さんから10点満点中10点で評価されたとしても、受付の評価が0点であればクリニックの評価は0点になってしまうということです。

ですから、クリニックの職員に対する教育や接遇といった点もとても重要になりますし、チームとしてきっちり機能しているクリニックは患者さんからの評価が高くなるということになります。


■口コミの1番の発生源
良い口コミは出来れば自然に発生してくれるのが1番良いですよね。よく意図的に口コミを起こすといった業者さんもいますが実態が伴っていなければ、一過性のもので終わってしまいます。ただ地域のイベントに参加したり、良い広告塔になり得る患者さんにPRするといった努力はとても大切です。

そこでよく見落としがちな点として大切なことは、1番の口コミの発生源は「誰か」ということです。

1番の口コミ発生源、それは当院の「職員」です。

最近よくエンゲージメントという言葉がよく使われますが、エンゲージメントとは簡単にいうと、従業員の組織に対する「愛着心」や「思い入れ」をあらわすものになります。

職員がクリニックに愛着心や思い入れをもってもらえたら、そこから良い口コミが発生する可能性は高いですし、友人同士の会話の中で「うちのクリニックとてもいいよ」「院長先生はすごいイイ人だよ」といった話が展開することも十分に考えられます。

一方で、職員からの評価が低いとそこから悪い口コミが発生することもあり得ます。よくあるケースとして、何かトラブルがあって職員を辞めさせてしまった場合に、職員はその地域に住んでいることがほとんどですので、そこから悪い評判が拡がってしまうことも往々にしてありますので注意が必要です。

繰り返しになりますが、良くも悪くも口コミの1番の発生源になり得るのは、当院で働いてくれている職員です。良い口コミを発生させたければ、職員のクリニックに対するエンゲージメントを高めるための仕掛けづくりをすることが、遠回りのようで1番の近道ではないでしょうか。

院長先生のクリニック経営のヒントになるものが、1つでもあれば幸いです。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。

2次補正予算成立、新型コロナウイルス感染症による医業経営の逼迫に支援策

新型コロナウイルス感染症の拡がりに伴い、様々な業界で働く人や生活者に影響を与えています。医療機関も同様で、今回の感染拡大は多くの病院やクリニックなどの経営を逼迫させています。そんな中、医療機関への支援内容なども盛り込まれた令和2年度第2次補正予算が6月12日の参院本会議で可決・成立しました。今回はその内容の概要をご紹介します。

■感染リスクを抱えて働く医療従事者への支援

今回の補正予算は、「①感染リスクを抱えながら医療を提供する医療従事者への支援」「②新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関への支援」「③地域医療の確保に必要な診療を継続する医療機関への支援」「④万全な検査体制、ワクチン・治療薬の開発支援」の4つの内容で構成されています。

まずは、①感染リスクを抱えながら医療を提供する医療従事者への支援から見ていきます。この支援では、品薄で確保が困難となっているサージカルマスク、N95マスク、ガウン、フェイスシールド、消毒用エタノールなどを国で買い上げ、必要な医療機関等に優先配布を行うという物資的な支援のほかに、今回の補正予算では「患者と接する医療従事者等への慰労金の支給」という内容が盛り込まれました。支給額は1人あたり最大20万円となっています。また今回の慰労金については、実際に新型コロナウイルス感染症の入院患者を受け入れていない病院、診療所、訪問看護ステーション、助産所に勤務する職員に対しても1人あたり5万円の支給対象となっています。なお要件はありますが、医療従事者だけでなく患者と接する職員も支給対象となっています。

■空床1床あたり最大30.1万/日、重点医療機関などを支援

つぎに②新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関への支援についてです。こちらは新型コロナウイルス感染患者を受け入れているなどの重点医療機関に対する支援になります。

これまでに、2次補正とは別に重症・中等症の新型コロナ患者に対して、救急医療や集中治療室・ハイケアユニットなどでの管理を行った場合に算定できる診療報酬を平時の約3倍に引き上げたり、また医学的な見地から重症・中等症の新型コロナ患者の重症者の範囲が拡大されるなど、診療報酬の特例的な対応がおこなわれてきました。今回の補正予算では、重点医療機関などの病床確保や設備整備に対する支援が拡充・追加されました。

その他にも福祉医療機構の優遇融資が大幅に拡充されています。医業経営が逼迫している施設にとっては、非常にメリットのある制度体系となっていますので、活用されることをおすすめします。

■救急・周産期・小児医療機関への院内感染防止支援

続いては、③地域医療の確保に必要な診療を継続する医療機関への支援についてです。こちらは、「新型コロナ疑い患者の診療を行う救急・周産期・小児医療機関」を対象にしたものと「一般の医療機関・薬局など」を対象にしたものに分かれています。

今後、新型コロナの感染拡大と収束が反復する中で、必要な医療の提供を継続するため、院内感染防止対策を講じながら、一定の診療体制を確保することに必要な費用を補助するための支援金になります。前者の支援金としては、99床以下は2000万円、100床以上は3000万円までを上限としています(100床ごとに1000万円追加)。また実際に新型コロナ患者の入院受入れた医療機関に対してはさらに1000万円加算される内容となっています。同様に後者についても、病院は200万円+5万円×病床数、無床診療所は100万円などといった上限額が設けられています。

■万全な検査体制、ワクチン・治療薬の開発支援

最後に、PCRなど検査体制のさらなる強化として、「地域外来・検査センターの設置、研修推進、PCR・抗原検査の実施」「PCR 検査機器の整備、相談センターの強化」、「検査試薬・検査キットの確保」、「抗体検査による感染の実態把握」などが項目として挙げられています。またワクチン・治療薬の開発資金の補助や生産体制の整備補助なども盛り込まれています。


このように、補正予算としては過去最大といわれる今回の第2次補正予算には、医療機関を支援する内容が多く盛り込まれています。この新型コロナウイルス感染症の影響もいつまで長引くか先が見えないところもありますので、対象となる支援策については積極的に情報収集し活用すべきといえるのではないでしょうか。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。