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COLUMN

病院・クリニックが軒並み経営悪化!医業経営に与えたコロナの影響を考える

緊急事態宣言が解除されて3ヶ月が経過しようしています。しかし新型コロナウイルスによる影響はおさまることはなく、むしろ拡大していっているように感じられます。その影響は医療機関の経営にも顕著に表れており、経営困難による地域医療の崩壊といった最悪のケースも想定される事態といえます。

病院は軒並み経営悪化、賞与も約3割が減額・不支給

8月6日に公表された、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第1四半期)」結果によると、賞与支給状況について、調査回答病院1,459病院のうち、71.3%が「満額支給」、27.2%が「減額支給」、0.8%が「支給なし」と回答しています。これはご承知のとおり、新型コロナウイルスによる経営収支の悪化によるものと考えられます。

賞与の減額や不支給は、職員のモチベーションの低下や退職につながりかねません。特に病院は人ありきの組織ですので、職員の退職などが病院運営に与える影響は大きいといえます。

また有効回答全病院、コロナ患者入院未受入病院、コロナ患者入院受入・受入準備病院の3区分での経営指標を比較では、コロナ患者受入れの有無にかかわらず、昨年よりも経営が悪化していることがわかります。特にコロナ患者入院受入・受入準備病院の経営悪化は著しく、医業利益率がマイナス10%以上となっています。

参照資料:「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第1四半期)」

このような状況を鑑みて、各団体などからは政府に対する緊急的な経営支援が必要であると強く要望しています。では続いてクリニックの状況はどうでしょうか?

耳鼻・小児科クリニックは突出して経営悪化

クリニックについては、東京保険医協会の「第3回新型コロナウイルス感染症による医業経営への影響【緊急アンケート】 速報まとめ 無床診療所(一般診療所)調査結果概要」をもとにみていきたいと思います。

調査結果によると、有効回答930施設のうち、6月上旬の外来患者数が、前年同期と比べて「減った」と回答した施設は90.0%であり、4月の94.1%よりは低いものの、まだまだ患者数は戻っていない状況がうかがえます。また減少割合も「3割減24.8%」「4割減15.8%」「5割以上減27.2%」となっており、その割合も4月上旬とはそれほど大きく変わっていません。保険診療収入についても同様の傾向があり、状況が良化しているとはいえません。

次に保険診療収入が著しい診療科別にみてみましょう。特に耳鼻咽喉科や小児科の患者減少が大きく、「5割以上減」がそれぞれ77.3%・65.9%と突出しています。これらは受診による感染リスクを避けるために、親が子どもの受診を控えさせているといった見方ができます。特に小児科については、一部負担が無料のためこれまで気軽に受診していた患者が受診を控えるようになったことや、学校の休校などの影響も大きいと考えられます。

資料:「第3回新型コロナウイルス感染症による医業経営への影響【緊急アンケート】 速報まとめ 無床診療所(一般診療所)調査結果概要」をもとに筆者作成
コロナ後の経営環境はどう変化するか

これまでのとおり、コロナ禍における病院やクリニックの経営は非常に厳しくなっています。ではコロナ後はいったいどうなっていくのでしょうか?コロナ患者の受入や受入準備の影響により収支が圧迫されている病院であれば、コロナ収束後、経営は改善されるかもしれません。しかしそうではない医療機関、たとえば地域において比較的軽度な急性期医療を担っている病院やクリニックなどでは、受診控えなどといった患者の受診行動の変化の影響を大きく受けているといえます

この患者の受診行動の変化は、一時的なもので元にすぐ戻るという見方もありますが、そうでない見方もあります。それは、これまでが過剰の医療提供だったという見方です。この見方も一理あり、当社のクライアントのいくつかの病院では、急性期病棟の稼働率は低いが患者単価は高まっており、入院収入としては維持している施設があります。1つの見方として、これは本当に急性期治療が必要な患者しか入院してきていないという風に考えることもできます。ある意味、医療機関にかかる敷居が、入院外来問わず、高くなっていると捉えることもできます。

またさらに今回の感染予防意識が、今後も国民の意識に根強く残るとすれば、インフルエンザなどの感染症の病気にかかる頻度も少なくなるといったことは想定できます。

この答え合わせはある程度の長い年月が必要になりますが、いずれにせよ、国民の受診に対する意識や行動がコロナ後どのように変化するのか、医療機関の経営者は注視していく必要があるといえるのではないでしょうか。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

組織内コミュニケーション活性化の第一歩とは

組織を引っ張っていくリーダーの役割として、「メンバーの能力を如何に引き出してあげるか」、これはとても重要な事項の1つです。個々のメンバーが適材適所で業務にあたり、最高のパフォーマンスを発揮していくことが組織力の向上に繋がります。

これは、一般企業だけでなく、病院やクリニックにおいても同様のことがいえます。

組織における仕事の成果は、組織内のコミュニケーションによる影響が大きいと言われます。
特にリーダーのコミュニケーションにより、メンバーの仕事に対するモチベーションや職場の雰囲気が変わります。そしてそのコミュニケーションの取り方は、相手によって、変えていくことが理想的です。

たとえば、リーダーから、
「よくやったな!君は天才的だな!」
と褒められた場合、いかがでしょうか。

単純に「嬉しい」とポジティブに受け取る方もいれば、「馬鹿されている」とネガティブに受け取る方もいらっしゃいます。

同じように接しても、相手によって受け止め方が全然違います。

それは人によりコミュニケーションスタイルが異なるからだと考えられています。

コミュニケーションスタイルのタイプとして、個人や組織のパフォーマンス向上のためのコミュニケーションスキルである「コーチング」の事例を紹介します。

コーチングの考え方の1つとして、人のコミュニケーションスタイルを、「コントローラー」「プロモーター」「サポーター」「アナライザー」の4つのタイプに分類できると言われています。(株式会社コーチ・エィの「タイプ分け」を引用)

それぞれのタイプには以下のような特徴があるとされています。

【コミュニケーションスタイルのタイプ別の特徴】
■コントローラー

行動的で、自分が思った通りに物事を進めることを好むタイプ。過程よりも結果や成功を重視する。また他人から指示されることを何よりも嫌う。

【適した役割】
自分が物事を判断し、スピード感を持っているため、リーダーシップを取る役割に適する。

■プロモーター
注目されることがとにかく好きなタイプ。話の中心に自分がなったり、周囲から最上級の表現で褒められるなど、自分にはっきりと周りから関心の目が向けられている状態を好む。

【適した役割】
人に影響を与えることを好み、明るく目立つため、新しいことを始めることや多くの人の協力を得ることが必要な役割に適する。

■サポーター
人を援助することを好み、協力関係を大事にするタイプ。周囲の人の気持ちに敏感で気配りにも長けている。自分自身の感情は抑えがちで、人から認めてもらいたいという欲求も強い。

【適した役割】
人との合意を得たり、協力する傾向が強いため、サブリーダーやコーディネーターなどの役割に適する。

■アナライザー
行動の前に多くの情報を集め、分析・計画を立てるタイプ。物事を客観的に捉えるのが得意。また完全主義的なところがあり、ミスを嫌う。人との関わりは慎重で、感情をあまりに外側に表さない。

【適した役割】
物事の正確性や細部にわたることへの関心が高いため、調査、分析、アドバイザーなどの役割に適する。


もちろんこの4つにすべてが当てはまるということではありません。あくまでも統計上の傾向になります。またどのタイプに優劣があるということでもありません。ただタイプを知り理解することは、コミュニケーションの質がグッと高まることに繋がります。

もしかしたら、コミュニケーションがうまく図れず本来の力を発揮できていなかったメンバーが、接し方を変えるだけでパフォーマンスが上がることも大いに考えられます。

日々一緒に仕事をする中で、メンバーのコミュニケーションスタイルを把握し、その人の価値観にあった接し方を心がけることも、組織を束ねるリーダーのスキルの1つです。

メンバーの最高のパフォーマンスを引き出すに、まずは相手のコミュニケーションスタイルを知ることから始めてみることをおすすめします。


参考図書
「4つのタイプ コーチングから生まれた熱いビジネスチームをつくる」
鈴木義幸 著

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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。

クリニック経営で抑えておくべき2つの数字

前回のコラムでは、「クリニック集患・増患における口コミ」について、書かせていただきました。今回もクリニック経営関連ということで、開業後、クリニック経営をするうえで特にチェックしておくべき2つのポイントについて解説させていただきます。

結論からいいますと、その2つとは、「キャッシュフロー」と「来院頻度」です。

クリニック経営を安定化させるためには、この2つの推移が非常に大切です。ですので、毎月欠かさずチェックを行い、その推移によっては対策を練っていく必要があります。


■ 利益とキャッシュフローの差は?

「黒字倒産」という言葉をご存知でしょうか?
利益が出ているにもかかわらず、事業が破綻してしまう状態をいいます。

ではなぜそのようなことが起こるのでしょうか?
その要因は、「資金繰り」=「キャッシュフロー」です。

どんなに売上が上がって利益が出ていようとも、キャッシュフローが回っていないと事業は破綻します。逆に、もし収支がマイナスで赤字が続いても、手元にキャッシュが確保できれば事業を継続することは可能です。

そのため経営にあたっては、利益とキャッシュフローの関係性を十分理解しておくことが重要となってきます。

では、そのような事態を生じる要因はどこにあるのでしょうか?

主には、「医業未収金」と「設備投資や未使用在庫」の2つです。

クリニックにおいては保険収入が収入源の主となりますが、この診療報酬は診療から入金まで最長で約3ヶ月のタイムラグがあります。つまり売上として計上されていても、キャッシュとして入金されるのは3ヶ月後(窓口収入以外)になります。つまりは、その間に生ずる様々なコストは窓口収入を含む手元資金で賄わなければなりません。

また設備投資については、毎月の費用としては減価償却費として耐用年数に合わせて按分され費用計上されます。しかしながら、実際の支払い(お金が出ていく)タイミングは、それとは異なるわけです。未使用在庫も同様に、購入して対価を支払っても、資産として計上されますが費用には計上されません。

これら2つの要因により、利益とキャッシュフローに差が生じるわけです。

特に開業当初は、要注意です。設備資金の返済金額やリースの利率などは気にするものの、返済タイミングや支払期間等を考慮していないケースも往々にしてみられます。そうすると、利益は出ているものの、開業当初のキャッシュフローが一気に悪化して、いきなり運営がピンチという事態も考えられます。

ですので、クリニックを経営される先生方には、利益も大事ですが日々のキャッシュフローの状況を把握することが何よりも大切です。

ただ診療で忙しい院長がそれらをすべて把握しておくことはとても難しいかもしれません。そういった場合には、顧問税理士や外部パートナーに毎月資金繰り表を説明してもらうなどしながら、自らの目でキャッシュフローを確認していくことをおすすめします。


■ 患者数を安定させるためには来院頻度

クリニック経営でよく使われる公式として、以下のものがあります。

「年間医業収入」 = 「新規患者数」 × 「診療単価」 × 「来院頻度」

つまり医業収入を増やすためには、上の3つの項目の数字を上げていけばいいことになります。

この3つのうち、特に見落としがちで、重要視していただきたいのが、「来院頻度」です。その理由は主に2つあります。

①クリニックへのファン度合いがわかる
繰り返して来院してくれるということは、患者さんがクリニックのファンになってくれたということになります。一方で、病気やケガなどが治っていないのに通院をやめてしまう患者さんは、来院しなくなる理由はさまざまありますが、その背景には医師の診察や医療スタッフの応対など、サービスへの不満がある場合も少なくありません(診療科や疾患により異なる場合はありますが)。その要因を把握し修正することで患者数の安定化につながります。患者数を安定させるためには、地域住民のクリニックへのファン度合いをチェックすることは大切です。

②集患のためのコストが小さい
まだ見ぬ新しい患者さんをクリニックに来院してもらうためには、看板や広告などの費用がかかってきます。しかもその効果の検証もしづらいのが実際のところではないでしょうか。一方で1度来院してくださった患者さんであれば、アプローチ対象も明確ですし集患にかかるコストが小さくて済むのです。そういった面でも患者さんごとの適正来院頻度を把握して、必要に応じてケアしてあげることは経営面で費用対効果は高いといえます。

まずは直近3ヶ月から6ヶ月のカルテをチェックし、継続的に通院していたのに、急に来院しなくなった患者さんがどれだけいるか、抽出してみると、患者さんの来院頻度の実態をつかむことができます。

今回は、「キャッシュフロー」と「来院頻度」というクリニック経営でチェックすべき2つのポイントについてお伝えさせていただきました。まだチェックできていないと思われる院長先生は、ぜひこれから定期的にチェックされることを強くおすすめします。

クリニック集患・増患における口コミの1番の発生源は?

クリニックに限らず、どんな業種・業態においても口コミは人の行動意欲に影響を与えます。また最近では、物やサービスを消費する際には必ずといっていいほど、SNSで検索してから意思決定がされます。SNS上の評価もとても重要であり、それも口コミの1つだといえます。今回は集患・増患対策における口コミについて、考えてみたいと思います。


■口コミが集患・増患に効果的な理由とは
クリニック集患・増患で最も強力な効果があるものといえば、「口コミ」です。また近年はSNSの利用者も拡がり、インターネット上の口コミも影響力が高いといえます。

では、なぜ口コミが効果的なのでしょうか。人間の行動心理学の側面から考えてみたいと思います。

1つは、人は「直接伝えられる情報よりも第三者による情報のほうが信じられやすくなる」傾向があるということです。特に1度経験・体験した第三者からの情報は、信頼度がグッと高まります。またその第三者が身近な方であったり、著名人であったりすると尚更です。この心理的効果を、「ウィンザー効果」といいます。

2つ目は、人の心理には「多くの人に人気があるもの・支持されているものをより一層支持する」といった傾向があると言われます。飲食店の行列に何時間かけても並ぶ人がいるのも、まさしくこの心理です。これを「バンドワゴン効果」といいます。クリニックも同様に、患者さんが少ないクリニックよりも多いクリニックの方が何となく安心感や信頼感を得やすくなります。なぜなら、地域の多くの住民が選んでいるのだから間違いないはず!きっといい先生なんだ!という心理が働くからです。

このような側面からは口コミは患者さんがクリニックを選ぶ際の意思決定に大きな影響を与えるといえます。


■ではなぜ口コミは起きるのでしょうか?
口コミが起きる要因は、患者さんの期待と実体験のギャップによるものです。

『患者さんの期待≦来院時の評価』であれば、患者さんはプラスの感情を抱き、良い口コミの発生源になる可能性があります。一方で、『患者さんの期待>来院時の評価』であれば、患者さんはマイナスの感情を抱いてしまい、悪い口コミが発生してしまう可能性があります。

そして「患者さんの期待」は、主に来院前につくられるというのポイントです。クリニックのホームページの印象や載せている内容、内装の雰囲気、院長先生のプロフィールや専門性、顔写真、SNS上の評価や口コミなど、こういった点から患者さんの期待はつくられていきます。

たまにホームページの見栄えや写真、載せている内容が素晴らしく信頼感を感じるクリニックにもかかわらず、来院してみるとホームページの印象とかけ離れているクリニックに出くわします。おそらく患者さんは、来院した時点で、このクリニックに対して「あれ?」という不安感を抱くはずです。もちろん院長先生の診察やスタッフの対応が素晴らしければそこで挽回も可能ですが、そうでない場合は患者さんの期待を下回り失望させることになりかねません。

来院前の患者さんにどんな期待を抱かせているか、そういった視点もクリニック経営には必要といえます。


■クリニックの評価は足し算ではなく掛け算
続いて、患者さんの来院時の評価についてですが、来院時の評価は、「受付+医師+看護師+薬剤師」の足し算ではなく「受付×医師×看護師×薬剤師」の掛け算により決まるという考え方があります。

つまり、院長先生が素晴らしい対応で患者さんから10点満点中10点で評価されたとしても、受付の評価が0点であればクリニックの評価は0点になってしまうということです。

ですから、クリニックの職員に対する教育や接遇といった点もとても重要になりますし、チームとしてきっちり機能しているクリニックは患者さんからの評価が高くなるということになります。


■口コミの1番の発生源
良い口コミは出来れば自然に発生してくれるのが1番良いですよね。よく意図的に口コミを起こすといった業者さんもいますが実態が伴っていなければ、一過性のもので終わってしまいます。ただ地域のイベントに参加したり、良い広告塔になり得る患者さんにPRするといった努力はとても大切です。

そこでよく見落としがちな点として大切なことは、1番の口コミの発生源は「誰か」ということです。

1番の口コミ発生源、それは当院の「職員」です。

最近よくエンゲージメントという言葉がよく使われますが、エンゲージメントとは簡単にいうと、従業員の組織に対する「愛着心」や「思い入れ」をあらわすものになります。

職員がクリニックに愛着心や思い入れをもってもらえたら、そこから良い口コミが発生する可能性は高いですし、友人同士の会話の中で「うちのクリニックとてもいいよ」「院長先生はすごいイイ人だよ」といった話が展開することも十分に考えられます。

一方で、職員からの評価が低いとそこから悪い口コミが発生することもあり得ます。よくあるケースとして、何かトラブルがあって職員を辞めさせてしまった場合に、職員はその地域に住んでいることがほとんどですので、そこから悪い評判が拡がってしまうことも往々にしてありますので注意が必要です。

繰り返しになりますが、良くも悪くも口コミの1番の発生源になり得るのは、当院で働いてくれている職員です。良い口コミを発生させたければ、職員のクリニックに対するエンゲージメントを高めるための仕掛けづくりをすることが、遠回りのようで1番の近道ではないでしょうか。

院長先生のクリニック経営のヒントになるものが、1つでもあれば幸いです。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。

2次補正予算成立、新型コロナウイルス感染症による医業経営の逼迫に支援策

新型コロナウイルス感染症の拡がりに伴い、様々な業界で働く人や生活者に影響を与えています。医療機関も同様で、今回の感染拡大は多くの病院やクリニックなどの経営を逼迫させています。そんな中、医療機関への支援内容なども盛り込まれた令和2年度第2次補正予算が6月12日の参院本会議で可決・成立しました。今回はその内容の概要をご紹介します。

■感染リスクを抱えて働く医療従事者への支援

今回の補正予算は、「①感染リスクを抱えながら医療を提供する医療従事者への支援」「②新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関への支援」「③地域医療の確保に必要な診療を継続する医療機関への支援」「④万全な検査体制、ワクチン・治療薬の開発支援」の4つの内容で構成されています。

まずは、①感染リスクを抱えながら医療を提供する医療従事者への支援から見ていきます。この支援では、品薄で確保が困難となっているサージカルマスク、N95マスク、ガウン、フェイスシールド、消毒用エタノールなどを国で買い上げ、必要な医療機関等に優先配布を行うという物資的な支援のほかに、今回の補正予算では「患者と接する医療従事者等への慰労金の支給」という内容が盛り込まれました。支給額は1人あたり最大20万円となっています。また今回の慰労金については、実際に新型コロナウイルス感染症の入院患者を受け入れていない病院、診療所、訪問看護ステーション、助産所に勤務する職員に対しても1人あたり5万円の支給対象となっています。なお要件はありますが、医療従事者だけでなく患者と接する職員も支給対象となっています。

■空床1床あたり最大30.1万/日、重点医療機関などを支援

つぎに②新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関への支援についてです。こちらは新型コロナウイルス感染患者を受け入れているなどの重点医療機関に対する支援になります。

これまでに、2次補正とは別に重症・中等症の新型コロナ患者に対して、救急医療や集中治療室・ハイケアユニットなどでの管理を行った場合に算定できる診療報酬を平時の約3倍に引き上げたり、また医学的な見地から重症・中等症の新型コロナ患者の重症者の範囲が拡大されるなど、診療報酬の特例的な対応がおこなわれてきました。今回の補正予算では、重点医療機関などの病床確保や設備整備に対する支援が拡充・追加されました。

その他にも福祉医療機構の優遇融資が大幅に拡充されています。医業経営が逼迫している施設にとっては、非常にメリットのある制度体系となっていますので、活用されることをおすすめします。

■救急・周産期・小児医療機関への院内感染防止支援

続いては、③地域医療の確保に必要な診療を継続する医療機関への支援についてです。こちらは、「新型コロナ疑い患者の診療を行う救急・周産期・小児医療機関」を対象にしたものと「一般の医療機関・薬局など」を対象にしたものに分かれています。

今後、新型コロナの感染拡大と収束が反復する中で、必要な医療の提供を継続するため、院内感染防止対策を講じながら、一定の診療体制を確保することに必要な費用を補助するための支援金になります。前者の支援金としては、99床以下は2000万円、100床以上は3000万円までを上限としています(100床ごとに1000万円追加)。また実際に新型コロナ患者の入院受入れた医療機関に対してはさらに1000万円加算される内容となっています。同様に後者についても、病院は200万円+5万円×病床数、無床診療所は100万円などといった上限額が設けられています。

■万全な検査体制、ワクチン・治療薬の開発支援

最後に、PCRなど検査体制のさらなる強化として、「地域外来・検査センターの設置、研修推進、PCR・抗原検査の実施」「PCR 検査機器の整備、相談センターの強化」、「検査試薬・検査キットの確保」、「抗体検査による感染の実態把握」などが項目として挙げられています。またワクチン・治療薬の開発資金の補助や生産体制の整備補助なども盛り込まれています。


このように、補正予算としては過去最大といわれる今回の第2次補正予算には、医療機関を支援する内容が多く盛り込まれています。この新型コロナウイルス感染症の影響もいつまで長引くか先が見えないところもありますので、対象となる支援策については積極的に情報収集し活用すべきといえるのではないでしょうか。


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森田仁計(もりた よしかず)

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1982年、埼玉県生まれ。
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ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。

医療機関が活用できる新型コロナ対応の助成金・補助金・融資制度をまとめてみました!

前回のコラム『新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査より』でもご紹介しましたが、新型コロナ感染症患者を受け入れた病院も、そうでない病院も、経営状況は厳しくなっているといえます。

またクリニックにおいても同様で、受診抑制などにより外来患者が減少し収益が減少している施設が多くあります。

厚生労働省はこうした危機的状況への対応として、5月分の診療報酬等の概算前払を可能にするなどの措置をとっていますが、先行きの見えない状況であることから、多くの医療機関で不安定な経営を余儀なくされています。今回は医療機関が活用できる主な助成金や補助金、融資制度などについて紹介していきます。


■雇用調整助成金の特例
雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。

この度新型コロナウイルスの影響を受けた事業者に対し特例が設けられました。またコロナ対策の2次補正予算の成立により、期間も6月末から9月末まで、助成額上限は職員1人1日につき8,330円が15,000円へなどとさらに拡充が予定されています。


■持続化給付金
こちらは感染症拡大により、営業自粛等により特に大きな影響を受ける事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、事業全般に広く使える給付金となっています。

2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月(以下「対象月」という。)が存在する事業者が対象となります。給付額は法人が200万円、個人事業者が100万円を超えない範囲で、前年売上からの減少分が上限となっています。


■小学校休業等対応助成金
こちらは新型コロナに関する対応として、臨時休業等をした小学校等に通う子を持つ保護者を対象とするものになります。給付対象は該当する保護者を雇用する事業主であり、支給額は、有給休暇を取得した対象労働者に支払った賃金相当額で、上限は1日8,330円となっています。また雇用調整助成金と同様に、2次補正予算の成立により、令和2年4月1日以降に取得した休暇については 上限15,000 円までに拡充される見通しです。


■新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金
第二次補正予算では、新型コロナウイルス感染症の事態長期化・次なる流行の波に対応するため、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金を抜本的に拡充されました。

具体的には、次の事業が新規で追加されました。

・重点医療機関(新型コロナウイルス感染症患者専用の病院や病棟を設定する医療機関)の病床の確保
・重点医療機関等における超音波画像診断装置、血液浄化装置、 気管支ファイバー等の設備整備
・患者と接する医療従事者等への慰労金の支給
・新型コロナウイルス感染症疑い患者受入れのための救急・周産期・小児医療機関の院内感染防止対策
・医療機関・薬局等における感染拡大防止等のための支援

医療従事者等への慰労金の支給については、都道府県から役割を設定された医療機関等に勤務して患者と接する医療従事者や職員で、かつ実際に診療する医療機関等であれば「20万円」、その診療を行っていない場合は「10万円」、その他の医療機関等には「5万円」と設定されています。


■無担保・無利子の融資制度拡充
融資制度については、政府が債務保証することで融資を受けやすくする「セーフティネット保証」でも特例措置のほか、医療機関向けの融資では、独立行政法人福祉医療機構が行う「医療貸付事業」が拡充されています。
先週(6/12)の2次補正予算の成立により、無利子・無担保での融資枠を拡大するとともに、貸付限度額の引き上げも行われることが予定されています。また審査体制の拡充が行われることにより、より円滑な融資の実施につながることが想定されます。

緊急事態宣言が解除されたとはいえ、国民の受診抑制傾向は依然として継続することが想定されます。2次補正予算に盛り込まれた内容の活用方法などについても、早々に公開されるのではないかと思われます。
先行きが見えない不安定な状況だからこそ、あらゆる方面にアンテナを張りながら情報を素早く収集し、この危機を乗り切るためにも長期的な視点で上手に活用していくことが大切といえそうです。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。

新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査より

新型コロナウイルス対策としての緊急事態宣言が5月25日、全国で解除されました。

まだ完全に終息したわけではありませんが、諸外国のような感染爆発的な状況はいったん回避されたように思われます。ただまだ第2波、第3波の可能性もあることから油断は禁物ですね。

そして、新型コロナウイルスの影響は病院経営においても、非常に大きなインパクトを与えています。

日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が5月18日に公表した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査」(速報)から、病院経営の厳しい状況がうかがえます。

■4月病院収入は軒並み減、前年比▲10%以上

速報資料では、2019年4月と2020年4月の実績が比較されていますので、一部をご紹介します。

病院全体(回答数1,049施設)では、
・入院収入は▲8.9%
・外来収入は▲11.5%
・その他医業収入は▲22.8%
と大きく減少し、2020年4月の医業利益率は▲9.0%。

またコロナ患者を受け入れている病院(269施設)に絞ると、
・入院収入は▲12.2%
・外来収入は▲12.0%
・その他医業収入は▲24.5%
と大きく減少し、2020年4月の医業利益率は▲11.8%となっています。

さらに詳細の資料では、外来延患者数、初診患者数、手術件数などの比較もされています。2019年4月と2020年4月の比較をしてみると、

病院全体(回答数1,049施設)では
・外来延患者数:8518人→6841人(▲19.7%)
・初診患者数:919人→532人(▲42.1%)
・病床利用率:82.2%→75.9%(▲6.3ポイント)
・手術件数:156件→128件(▲17.9%)
・救急受入れ件数:380件→246件(▲35.3%)
と軒並み減少しています。

またこれをコロナ患者を受け入れている病院(269施設)に絞ると、
・外来延患者数:17355人→13682人(▲21.2%)
・初診患者数:1809人→1054人(▲41.7%)
・病床利用率:78.2%→67.1%(▲11.1ポイント)
・手術件数:363件→292件(▲19.6%)
・救急受入れ件数:943件→606件(▲35.7%)

コロナ患者を受け入れることは必要なことですが、経営的には非常にマイナスのダメージが大きいことがうかがえます。

さらに8つの特定警戒都道府県(北海道・埼玉・千葉・東京神奈川・京都・大阪・兵庫)に絞ってみると、
・外来延患者数:9682人→7403人(▲23.5%)
・初診患者数:1105人→574人(▲48.1%)
・病床利用率:82.5%→75.3%(▲7.2ポイント)
・手術件数:181件→143件(▲21.0%)
・救急受入れ件数:375件→241件(▲35.7%)

となっており、他のエリアと比べると「外来」により大きな影響が大きく、特に初診患者数などは5割減になっていることがうかがえます。

全体的には入院単価の高い手術や救急などが、それぞれ20%、35%前後減っており、病院経営に大きな打撃を与えているといえそうです。

また入院・外来以外でも、当社のクライアントの状況などをみると、健診事業がストップしてしまっていることも病院経営を逼迫している大きな要因の1つといえます。健診事業といえば、比較的利益率の高い事業ですが、感染防止の観点から内視鏡などの検査を延期するように医師会等から通達が入ったこともあり、健診事業が1月近く完全にストップしている施設もあります。

さらに、マスクやガウンなどの医療材料も高騰していたこともあり、費用面でも例月より苦しくなっている施設も多いかと思われます。

このように緊急事態宣言解除後の病院経営は極めて厳しいといえます。

■経営難からの医療崩壊を防ぐために

このような状況を鑑みると、医療機関への緊急的な助成は必要となってきます。

新型コロナウイルス感染症患者受入病院に対する助成金等の支給(診療報酬の増額や危険手当支給に対する助成など)はもちろんのこと、新型コロナウイルス感染症の診療の有無に関わらず、全ての医療機関の収入減少に対する助成なども検討すべきと考えます。

さらには、第2波、第3波に備えて、病院としては感染対策を含めた医療提供体制の整備もしていかねばなりません。その点も考慮すると、ある程度の助成は必要ではないかと考えます。

そうでなければ、経営難からの医療崩壊につながる恐れも強く危惧されますし、そうなれば第2波、第3波の新型コロナウイルス感染症への対応が困難になりかねません。

そのような状況下、つい先日5月27日に新型コロナウイルス感染症の感染防止、医療提供体制の確保、経済対策などを目指す第2次補正予算を閣議決定されました。

2次補正単体では31兆9114億円が計上されており、医療提供体制の確保等を目指す厚生労働省所管分は4兆9733億円となりました。

ポイントは次の3つを挙げています。
①検査体制の充実、感染拡大防止とワクチン・治療薬の開発(2719億円)
②ウイルスとの長期戦を戦い抜くための医療・福祉の提供体制の確保(2兆7179億円)
③雇用調整助成金の抜本的拡充をはじめとする生活支援(1兆9835億円


医療機関の経営支援に関しては②に該当し、「医療機関等の経営支援のため、無担保・無利子融資を拡充」といった内容も含まれています。

その他、医療物資や個人防護具についても国で確保し、必要な医療機関等へ配付など、支援策がいろいろと盛り込まれているので、一度厚労省のホームページでご確認することをおすすめします。

■令和2年度厚生労働省第二次補正予算案の概要
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/20hosei/02index.html

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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。

アフターコロナにおけるクリニック経営を考える

新型コロナウイルス感染拡大を受け、感染患者もしくは疑いのある患者を受入れる病院が大変厳しい運営状況にあることはメディアなどでもよく報道されています。

一方で、コロナ感染者を受け入れていない(医療機能や地域医療の役割としてそうでない)病院はどうなのかというと、地域住民の感染防止のための診療抑制により外来患者が激減したり、また少しでも発熱がある患者の紹介などは受入れに慎重になるなど、入院患者が減少している医療機関がほとんどです。

すでに今年は経営的には非常に厳しくなることが予想されています。

クリニックも同様かと思います。外来患者が減少している施設が多いようです。

そんな中、徐々にではありますが、感染者数も落ち着き、政府の緊急事態宣言が解除される方向性にあります。

では、解除されれば、患者はコロナ前に戻るのでしょうか?

おそらくそんな事はないと考えられます。

政府から新しい生活様式が提示されたように、われわれの生活スタイルを変えていくことが求められています。

それに伴い、医療機関もその変化に対応していかざる得ないことが想定されますので、今からアフターコロナに備えて、仮説を立てておくことは大切であると考えます。

■新しい生活様式への対応必須

前述しましたが、緊急事態宣言解除後はこれまで通りの生活に戻っていいのかというと、どうやらそうではないようですね。政府から新しい生活様式が提示されました。

医療機関でもその新しい生活様式を踏まえた対応をしていく必要があります。

今回は主にクリニックに焦点をあててみたいと思います。

「3密を避ける」、これは変わらずに続くと想定されます。

そうすると、1番危惧されるのは外来の待合室です。

特に整形外科などの多くの高齢者が集まる場所は感染の心配があります。患者さんと患者さんとの距離や換気などにも、より一層気を配る必要が出てきます。

一般の内科などでは、3密を避けるために予約診療やオンライン診療などを積極的に活用せざる得ない状況になるとも想定されます。

他にも、会計の待ち時間や金銭を手渡しする際の接触を避けるために、自動精算機の導入やキャッシュレス化などが促進されるかもしれません。

またもっと危惧されるのが、採用面です。

ただでさえ採用が難しい中、今回のコロナにより就職先として医療機関を避けるという考えも出てくるかもしれません。特に受付などの求職者は、わざわざ医療機関を選ばなくてもいいわけです。

そういった点ですと、自動受付機やペッパーくんなどのロボットが活躍する日も近いかもしれません。

また開業地の考え方も変わってくるかもしれません。

今回のコロナにより、多くの企業でテレワークが定着した場合、これまでオフィスで働くビジネスマンをターゲットとしていたオフィス街のクリニックは患者減になる可能性があります。

一方で、住宅街のクリニックは患者が増えるなど患者が分散する現象が起きるかもしれません。

このような可能性を考えると、新規開業地は駅前などだけでなく住宅街を積極的に選ぶといった医師も出てくるかもしれません。

このようにアフターコロナにおける仮説は色々とたてられます。自院ではどのような可能性があり得るか、今の内から頭の隅で考えておくことは大切と考えます。

また今回のこのような変化は、「コロナにより急にやってきた」というイメージがありますが、コロナがなくても、いずれ近いうちに、われわれが対応しなければならない変化だと個人的には考えています。

ですので、ある意味アフターコロナは前向きに捉えて、対応していくことが大切ではないかと思うのです。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。

『2020年度診療報酬改定ポイント早わかり!医療費の仕組みを体系的に解説』新書発売

新型コロナウイルス感染拡大が猛威を奮っている中、医療現場の最前線で診療やケアにあたって下さっている医療機関の皆さま、また我々の生活を維持するためにウイルス感染の危険がある中、業務にあたって下さっている皆さま、心より感謝申し上げます。

そのよう中、大変恐縮ではございますが、このたび弊社で執筆いたしました「医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本 」の第3版が、4月28日から全国の各書店より発売されました。2020年度診療報酬改定の方向性を踏まえた最新版です。2025年医療制度改革に向けての現状分析、対策にも触れており、病院・診療所の経営管理、医療事務従事者はもちろん、製薬・医薬品卸・医療機器メーカー営業の方などにも必須の1冊となっております。

ぜひお手にとって、ご覧いただけましたら幸いです。


★図解入門ビジネス 最新医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本[第3版](秀和システム)
こちらからご購入いただけます。



<本書『はじめに』により>
西暦2020年は、全世界で歴史的な年となりました。新型コロナウイルスが発生し、世界の国々で罹患者が続出、世界中の人々を恐怖に陥れるという事態になっています。本書執筆中においても、拡大の一途をたどっている状況です。特にヨーロッパの一部の国では財政的な理由から医療提供体制を縮小した影響もあり、医療崩壊ともいえる危機的な状況となっています。これはある意味、経済を優先した人間に対する警鐘といえるかもしれません。

本稿を執筆している2020年4月1日現在、我が国日本では他国に比べると爆発的な広がりは見せておらず、政府・各自治体の対応にいろいろ批判はあったものの、国民皆保険制度のもと、ある一定の秩序が保たれているように見えます。

我が国においても少子高齢化の影響で医療費抑制の制度改革が進められていることはご承知のとおりですが、今回のコロナ騒ぎで見直しを求められるかもしれません。ただ、そうはいっても今後の社会保障費の増大と税収・保険料収入の減少は不可避であり、医療制度改革のスピードを緩めることはできません。

そういった状況の中で、私たち国民は医療費の抑制を国・政府だけに頼ることなく、自らの手で実現をしていく必要があるといえます。

本書も皆様の医療に関係する知識向上に役立てるよう、第1版より医療費の仕組みをわかりやすく解説してまいりました。おかげさまで版を重ねることができ、今回第3版を発行することとなりました。

2020年は世界的災禍の中での診療報酬改定となりましたが、本第3版は、少子高齢化の中での働き方改革、医療提供体制の機能分化・強化および地域包括ケアシステムの構築・推進という、コロナ問題とは別の国家的課題に対する制度改革を解説するとともに、医療機関における対応策についても言及しています。

今後国民一人ひとりが、医療制度改革や医療費について自らの問題であるという自覚を高めるとともに、医療費抑制、医療・介護保険制度の健全な維持・発展を実現していくために、本書がその一助になるよう願ってやみません。

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う診療報酬上の臨時的な取扱いの整理

新型コロナウイルス感染は衰えることなく拡大しており、安倍晋三内閣総理大臣は4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言を行いました。さまざまな対策が打ち出されていますが、診療報酬においても最前線で業務にあたっている医療機関を支援するための臨時的な特例が示されています。今回はその内容について整理していきたいと思います。


■診療報酬上の臨時的な取扱い項目と主な内容


(1)入院が医療法上の許可病床数を超過する場合
新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れたことにより、医療法上の許可病床を超過する場合には、通常適用される診療報酬の減額措置を行わないこととされています。

(2)施設基準等を満たすことができなくなる場合
新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れたことにより、入院患者が一時的に急増等した場合や、学校等の臨時休学に伴い、看護師が自宅での子育て等を理由として勤務することが困難になった場合等においては、当面、月平均夜勤時間数については、1割以上の一時的な変動があった場合においても、変更の届出は不要とされています。

また看護配置の変動やDPC対象病院の要件等も同様で、要件を満たさなくなった場合でも当面の間は変更の届出は不要で、これまで通りの診療報酬が算定できることとされています。

さらに新型コロナウイルス感染症患者を受け入れたこと等により、平均在院日数、重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率、医療区分2又は3の患者割合等の要件を満たさなくなった場合については、当面の間は、直ちに施設基準の変更の届出は不要としています。

(3)本来の病棟でない病棟等に入院した場合
原則として、当該患者が実際に入院した病棟の入院基本料等を算定することとしています。ただし会議室等病棟以外の場所に入院させた場合には、必要とされる診療が行われている場合に限り、当該医療機関が届出を行っている入院基本料のうち、当該患者が本来入院すべき病棟の入院基本料を算定できるとしています。

また新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れたことにより、特定入院料の届出を行っている病棟に診療報酬上の要件を満たさない状態の患者が入院(例えば回復リハビリテーション病棟に当該病棟対象でない患者が入院)した場合には、当面の間、当該患者を除いて施設基準の要件を満たすか否かで判断することとしています。

(4)要件の研修等が受けられなかった場合
定期的な研修や医療機関の評価を要件としている項目の一部については、研修や評価を実施できるようになるまでの間、実施を延期することができるとしています。例えば、地域包括診療料の施設基準に規定する慢性疾患の指導に係る適切な研修は、2年毎に届出が必要となっていますが、新型コロナウイルスの影響で研修が受けられなかった場合や中止になった場合などには、届出を辞退する必要はなく算定が継続できることとしています。ただし、研修が受けられるようになった場合には、速やかに研修を受講し、遅滞なく届出を行うこととしています。

(5)電話や情報通信機器を用いた診療等について
今回の診療報酬上の臨時的な取扱いの中で、最も議論として挙げられているのが、電話や情報通信機器を用いた診療等に関してではないでしょうか。

2月28日の事務連絡で、慢性疾患等を有する定期受診患者等について、電話や情報通信機器を用いて診療し医薬品の処方を行い、ファクシミリ等で処方箋情報が送付される場合、電話等再診料等を算定できることとしました。これについては、外来診療料も同様の取扱いになります。

そして、3月19日には情報通信機器等を用いた診療の幅を臨時特例的に拡大する観点から、事前の診療計画記載がなくとも、慢性疾患患者における「予測される症状変化に対応する医薬品」の処方についても再診で可能とされました。同時に、新型コロナウイルス感染の軽症者等が宿泊施設や自宅での療養となった場合には、電話や情報通信機器で経過観察を行い、必要な医薬品等を処方することも可能としました。

さらに4月に入り、新型コロナウイルス感染を恐れて国民が医療機関への受診が困難になっている状況を鑑みて、一度も診察したことのない患者への電話等での初診に対しても、臨時特例的な措置として限定的ではありますが、電話や情報通信機器を用いた診療を認めることを明確化しました。その場合の初診料は、「対面による初診料(288点)」に比べると低くいですが、初診料の注2に規定する214点となっています。

これに関連した内容として、オンライン診療料の施設基準である「1割上限」規定(1か月当たりの再診料等(電話等再診は除く)・オンライン診療料の算定回数に占めるオンライン診療料の割合が1割以下)を、新型コロナウイルス感染が拡大している間に限り適用しないことが示されました。オンライン診療料に関しては、当事項以外に見直しはされていないのが現状です。
オンライン診療料では、対面診療とオンライン診療の組み合わせが求められますが、このうちの対面診療については、今回の臨時的な取扱いにより「電話・情報通信機器等を用いた診療」に読み替えることができるようになっています。

(6)外来における対応について
新型コロナウイルス感染症患者(感染疑い患者を含む)の外来診療を行った場合には、受診の時間帯によらず、院内トリアージ実施料(1回300点)を算定できることができます(再診の場合も可)。なお、その際は院内感染防止等に留意した対応を行うことが必要です。

また、新型コロナウイルス感染症患者に対してのみ院内トリアージ実施料を算定する医療機関では、施設基準に関する届出は不要としています。

(7)入院における対応について
新型コロナウイルス感染患者を入院させた場合、当該患者が重症でなくとも「緊急に入院を必要とする重症患者として入院した患者」とみなして、救急医療管理加算1(950点/日)の算定を最長14日間認められます。さらに感染予防策を十分に講じている場合には、第二種感染症指定医療機関の指定の有無に関わらず、二類感染症患者入院診療加算(250点/日)の算定可能としています。

また感染症病棟や一般病棟のみで新型コロナ感染患者を受け入れることが困難な場合を想定し、地域包括ケア病棟入院料を算定する病棟または療養病棟入院基本料を算定する病棟に新型コロナウイルス感染患者を受け入れる場合には、それぞれ「在宅患者支援病床初期加算」(300点/日)または「在宅患者支援療養病床初期加算」(350点/日)の算定が臨時的に認められています。

(8)緊急に開設する保険医療機関の基本診療料の取扱いについて
新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れるために、緊急に開設する必要がある医療機関について、新たに基本診療料の届出を行う場合においては、要件審査を終えた月の診療分についても当該基本診療料を算定できるとしています。

(9)DPC/PDPS における取扱い
令和2年3月31 日までの期間において、医療資源を最も投入した病名が新型コロナウイルス感染症であった症例については、包括評価の対象外としています。


これらのように、新型コロナウイルス感染拡大の最前線で業務にあたって頂いている医療機関を支援するため、臨時的な特例として、さまざまな診療報酬上の対応が打ち出されています。これらは、厚生労働省のホームページ「自治体・医療機関向けの情報一覧(新型コロナウイルス感染症)」で確認することができ、これまでの対応や事務連絡などがまとめて掲載されています。診療報酬に関していえば、その中の「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」という資料を追っていくと、これまでの診療報酬上の特例対応を把握することができます。

診療報酬以外でも「サージカルマスク、長袖ガウン、ゴーグル及びフェイスシールドの例外的取扱い」や「自宅療養を行う患者等に対するフォローアップ業務の委託」など、医療機関向けの情報が日々更新されていっています。現時点ではまだコロナ収束の見通しは不明瞭ですが、こういった特例により医療現場の業務負担が少しでも緩和され、医療提供体制の維持に寄与することを願って止みません。


※当原稿は4月17日時点の情報に基づくものであり、診療情報上の臨時的な取扱いなどについては、日々更新されることがありますことを予めご了承ください。

出典:厚生労働省ホームページ、「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その1~11)」


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社
認定医業経営コンサルタント
1982年、埼玉県生まれ。
法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学
ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社。
現場営業から開発・企画業務まで携わる。
2015年、医療総研株式会社に入社し、
認定登録医業経営コンサルタントとして、
医療機関の経営改善や組織変革、
人事制度構築などの運営改善業務に従事。