コラム
COLUMN

クリニックにおける機能の明確化とは~誰を顧客とするのかを決める~

「外来機能報告制度」の議論が、厚生労働省のワーキンググループで本格化されてきました。この制度は、外来医療の機能分化を推進するための方策として取り組まれているもので、対象となった病院は紹介中心型の病院として位置づけられます。これまでも地域医療構想や働き方改革などを受けて、医療機能を明確化して、効率的に医療を提供する流れが進んできましたが、新型コロナウイルス感染症の影響でその流れが一気に加速していると感じています。この機能の明確化の流れは、病院だけが対象と考えてしまいがちですが、クリニックにおいても自院の機能を明確化しておくことは、マーケティングや職員採用、ブランディングなどの観点からも必要と考えます。では、クリニックにおける機能の明確化とはどういうことでしょうか?今回のコラムではそのあたりを深掘りしたいと思います。


■クリニックにおける機能の明確化とは
「医療機能の明確化」については、どうしても病院だけが対象と考えてしまいがちではありますが、クリニック経営においても必要な考え方ではないかと思うのです。特にこれからのクリニック経営を安定させるうえで、自院の機能をどうするのかを問い続けることは経営者にとって必要なこといえます。

では具体的にクリニックで「自院の機能を明確にする」とは、どういうことでしょうか?経営学者として著名なドラッカーの言葉を借りると、それは「誰を顧客とするのかを決める」ということです。

開業を考える医師によくあるケースですが、自分の「都合のいい時間帯や曜日」で「得意な技術や専門性」を提供できるクリニックをつくろうと考えてしまいがちです。しかし多くの場合、自分の都合だけを中心に開業したクリニックは、その診療時間帯や診療科のニーズが発生するのを待つだけの受け身の運営になる可能性があります。そうなると、経営が安定軌道するまでに時間がどうしてもかかってしまいます。

クリニック経営に限らずどんなサービスも同じですが、基本は「顧客ありき」をベースに考えることです。クリニック開業も同じで、可能な限り地域住民のニーズに沿った形で開業することで、開業の最初から地域住民に高い価値を感じてもらうことができます。特に首都圏など競合が多いエリアでは、患者側の選択肢は豊富にありますので、この考え方は重要といえます。


■機能の明確化の手順
ではクリニックの機能を明確化するためには、どのような手順で考えればいいでしょうか。1つの考え方にはなりますが、具体的な手順としては、次のとおりです。

①誰を顧客とするか(どういう患者の役に立ちたいのか)
②顧客にとっての価値は何か(その患者のお困り事は何か)
③自院が何を提供すべきか(お困り事の解決策は何か)


多くのクリニックが③から考えてしまいがちですが、大切なのはこの順番です。この①~③の順番で言語化していくことが重要となります。


■「顧客から直接答えを得なければならない」byドラッカー
とは言っても、院長お一人では上記の手順で考えてみてもなかなかしっくりこないケースもあると思います。可能でれば、院長だけでなく、働いている職員などとディスカッションしてみることもよいと思います。そしてさらに、新規開業時であれば地域の住民、すでに開業されている場合は既存の患者さんに聞いてみることがおすすめです。特に②に関しては、P.F.ドラッカーも以下のように書いています。ぜひ実践されてみてください。


“顧客は何をもって価値とするか、何が彼らのニーズ、欲求、期待を満たすかとの問いは、実はあまり複雑であって、顧客本人しか答えられない。(中略)したがって、答えを想像してはならない。必ず、顧客から直接答えを得なければならない。”
(『経営者に贈る5つの質問』P.F.ドラッカー著 ダイヤモンド社)


新規開業時にはもちろんですが、既にご開業されている先生方にも少し立ち止まって「誰を顧客とするか」考えていただくことをおすすめします。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

地ケア病棟、「3つの役割」が評価の論点に

令和4年度の次期診療報酬改定に向け、中央社会保険医療協議会では議論が加速しています。11月12日の中医協総会では、入院(その3)として、回復期入院医療についても議論されました。その中で議論されている地域包括ケア病棟の論点について、一部をご紹介していきます。


■地ケア病棟、3つの役割の偏り解消されず
前回の改定で、許可病床数400床以上の病院に設置した地域包括ケア病棟について、入棟患者に占める「自院の一般病棟から転棟した患者」割合が6割以上の場合には入院料を10%減額するという厳しい仕組みが設けられました。これは、「自宅等からの入棟が全くなく、自院からの急性期病棟からの転棟に偏っている地域包括ケア病棟がある」ことを問題視しての改定内容となりました。

しかし改定後の状況をみても、依然として「自院からの急性期病棟からの転棟に偏っている地域包括ケア病棟」の存在が見受けられています。





さらに、「自院の一般病棟からの転棟が8割以上」の病棟は、「自宅等から入棟した割合が8割以上」の病棟に比べて、患者の状態が安定しており、医療・看護提供頻度が少なく、医療資源投入量も小さいということが報告されています。




これらの内容を踏まえて、

●「自宅等から全く入棟しないパターン」、「自宅等のみから入棟しているというパターン」の地域包括ケア病棟の存在も示され、 地域包括ケア病棟の3つの役割のバランスが様々

●地域包括ケア病棟に求められる3つの役割について、病床規模や病床種別による患者の背景・地域における運用の在り方等や病床種別による患者の背景・地域における運用の在り方等が異なることも踏まえつつ、 役割の一部しか担えていない場合の評価について他の場合と分けて考えることなど、地域包括ケア病棟の機能の差を踏まえた評価について検討を行うべき


という指摘がされています。

■評価のメリハリをつけるべき
地域包括ケア病棟は(1)急性期後の患者を受け入れるポストアキュート機能、(2)自宅等からの軽度急性期の患者を受け入れるサブアキュート機能、(3)在宅復帰機能という3つの機能を併せ持つ病棟等として新設されました。

しかし前述のようにこの3つの役割がバランスよく提供されていない病棟も散見されています。そこで今回の改定の論点として、3つの役割を果たしている病棟とそうでない病棟で評価のメリハリをつけるべきとの議論がされています。

しかし診療側としては、近隣に在支診や在支病があるか否かなど地域ごとの医療提供体制の違いによって、受け入れ件数や自院からの転棟件数など3つの役割には濃淡が生じるとして、満遍なく3つの役割を果たすのが難しいケースがあると指摘しています。


自院の急性期病棟からの転棟のみで運営している度が過ぎた偏りは解消していく必要はありますが、地域によりその病院に求められる機能はそれぞれ違ってくる中で、すべての地域包括ケア病棟に3つの機能をバランスよく提供することを求めることも少しハードルが高いと言わざるを得ません。今回の改定でどのような結論に着地するのか、もう少し詰めた議論が必要といえそうです。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

「医療資源を重点的に活用する外来」の絞り込みに向けた議論が本格化

外来医療の課題として、患者の医療機関の選択に当たり、外来機能の情報が十分得られず、また、患者にいわゆる大病院志向がある中、一部の医療機関に外来患者が集中し、患者の待ち時間や勤務医の外来負担等の課題が生じているとされています。さらに、これから迎える(地域によっては既に迎えている)人口減少や高齢化、外来医療の高度化等が進む中、かかりつけ医機能の強化とともに、外来機能の明確化・連携を進めていく必要とされています。その取り組みの1つとして議論されているのが、地域における「医療資源を重点的に活用する外来(仮称)」の明確化です。本稿では、その内容について一部ご紹介していきます。


■「医療資源を重点的に活用する外来(仮称)」とは
患者にいわゆる大病院志向がある中で、①日常行う診療はかかりつけ医機能を担う身近な医療機関で受ける、②必要に応じて紹介を受けて、患者自身の状態に合った他の医療機関を受診する、③さらに逆紹介によって身近な医療機関に戻る―このような流れをより円滑にすることが求められています。この流れを促進することで、病院での外来患者の待ち時間の短縮や勤務医の外来負担の軽減、医師働き方改革にも資することが期待されています。

しかし「患者が外来機能の情報を十分得られない」「患者のいわゆる大病院志向」などという課題があり、なかなか思うように進んでいないのが現状です。そこで今回、外来機能の明確化に向けた取組みとして掲げられた「医療資源を重点的に活用する外来(仮称)」に注目が集まっています。

「医療資源を重点的に活用する外来(仮称)」とは、かかりつけ医等からの紹介受診を原則とする外来であり、紹介状を持たずに受診した場合には特別負担徴収が義務化となります。

この外来を地域で担う医療機関を明確化することで、患者が最初にかかるべき医療機関の選択を分かりやすくし、かつ患者やその家族である国民の医療のかかり方に関する理解を促すきっかけになることが想定されます。







■外来報告機能制度の創設
そこで前回の医療法改正でつくられた仕組みが「外来報告機能制度」で、次のような内容が盛り込まれています。

○病床機能報告の対象となる病院又は診療所は、外来機能報告により、「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」となる意向の有無などを報告しなければならない。
○無床診療所は、外来機能報告により、「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」となる意向の有無などを報告することができる。
○都道府県は、地域の協議の場を設け、外来機能報告を踏まえ「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」などについて協議を行い、その結果を取りまとめ、公表する。

抜粋:「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」に関する改正医療法(令和3年5月改正)の規定

外来機能報告制度は、2022年度開始に向けて2021年内に意見取りまとめを行うスケジュールになっています。最初の外来機能報告に向けた国から各病院等へのデータ提出は2022年の秋ごろになると予想されており、「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」が2023年3月までには全国で明確化される見通しです。

■具体的な基準の設定に向け議論へ
外来機能報告制度の2022年度開始に向けて議論が進められています。その中で、「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」の基準については、他の病院又は診療所から紹介された患者に対し医療を提供することとされている地域医療支援病院の状況を踏まえ、次の案が検討されています。

<基準案>
・初診の外来件数のうち「医療資源を重点的に活用する外来」の件数の占める割合: 初診●%以上
かつ
・再診の外来件数のうち「医療資源を重点的に活用する外来」の件数の占める割合: 再診●%以上


またここで言う「医療資源を重点的に活用する外来」とは、これまでの議論では

①医療資源を重点的に活用する入院の前後の外来
②高額等の医療機器・設備を必要とする外来
③診療情報提供料Ⅰを算定した30日以内に別の医療機関を受診した場合、当該「別の医療機関」の外来


などが検討されていますが、まだ結論は出されていません(詳細は図表)。




また「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」や「医療資源を重点的に活用する外来」の呼称についても議論中であり、後者の呼称案に関しては「紹介患者を基本とする外来」「紹介による受診を基本とする外来」「紹介基本外来」などが挙げられています。いずれにせよ、国民が誤解や混乱をしないような分かりやすいネーミングが期待されます。

■地域性を踏まえた検討が不可欠という意見も
このように「医療資源を重点的に活用する外来」については、基準設定や呼称などについて議論がなされていますが、このような基準だけで一様に決めることは難しいとの意見も出ています。やはり医療提供体制や医療機能は、地域ごとに異なるため、地域ごとの議論を進める必要があるとの声や、地域によっては患者が行き場を失う可能性もあるなど慎重な声も聞かれます。

「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」の明確化に当たっての考え方としては、国の示す基準を参考にして、医療機関の意向に基づき、地域の協議の場で確認することにより、地域の実情を踏まえる仕組みとすることとしており、当該医療機関の意向に反して、強制的に「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」となることはないと示しており、今後どのように集約されていくのか注目が集まるところです。

対象となり得る医療機関としては、外来機能報告制度の開始にあたり、自院がどのような意向を表明するのか、今の段階から議論を重ねておく必要あるといえます。そのためには現在の外来機能をあらためて見直すことも大切です。外来の患者の多さは医師の業務負担増にもつながることになりますので、働き方改革の一環として自院の外来機能を見直してみてはいかがでしょうか。


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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

令和3年10月以降の新型コロナ感染拡大防止のためのかかり増し経費の新たな補助

9月28日に、政府が新型コロナウイルス感染症に関する診療報酬の特例措置の期限が9月末で切れることに伴い、新たな支援策である「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金」の方針を明らかにしました。今回はその交付などについて詳細が公開されましたので、その一部をご紹介していきます。


■診療報酬の特例は9月末で終了
9月28日、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中で、医療機関等や介護事業所・施設の経営を、幅広く薄く支えるために行われきた感染症対策実施加算や介護報酬の0.1%上乗せなどの報酬特例について、9月末で終了することが決定されました。
そして10月以降の医療機関などの支援については、新たにつぎの2つの方針が明らかにされました。

①医療、介護、障害福祉における感染症対策について、そのかかり増し経費を直接支援する補助金により支援を継続する。申請手続は、できる限り簡素な方式とする。

②加えて、医療機関等における新型コロナ患者への診療に対する診療報酬上の特例的な対応を更に拡充する。


■病院・有床診は10万円、無床診は8万円を上限に経費補助
そして10月7日の事務連絡では、上記①の「かかり増し経費を直接支援する補助金」について詳細が明らかにされました。

新たな補助の名称は「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金」で、補助基準額(上限額)は、以下の区分ごとに、それぞれ次に定める額となります。

○病院・有床診療所(医科・歯科)10万円
○無床診療所(医科・歯科)8万円
○薬局・訪問看護事業者・助産所6万円


補助の対象経費については、10月1日から12月31日までに新型コロナウイルス感染症に対応した感染拡大防止対策に要した経費として、次のものが挙げられています。

○賃金、報酬、謝金、会議費、旅費、需用費(消耗品費、印刷製本費、材料費、光熱水費、燃料費、修繕料、医薬材料費)、役務費(通信運搬費、手数料、保険料)、委託料、使用料及び賃借料、備品購入費
(従前から勤務している者及び通常の医療の提供を行う者に係る人件費は除く)





■新型コロナ患者・疑い患者の受入れ対応の要件はなし
今回はその交付要件などの詳細も公開されております。またQ&Aも挙げられていましたので、その一部ご紹介します。

①「令和2年度(もしくは令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金)による補助を受けています(又は申請を行っています)が、本補助金の申請を行い、補助を受けることができますか。
【回答】可能です。

②新型コロナ患者・疑い患者の受入れ対応等をしていなくても対象となるのでしょうか。
【回答】新型コロナ患者・疑い患者の受入れ対応は要件となっていません。

③購入前に申請することは可能でしょうか。
【回答】令和3年10月1日から令和3年12月31日までに要した経費を実績に基づき申請してください。なお、他の補助事業の対象経費としたものを計上することはできません。

④入院患者のオンライン面会等のためのWi-Fi環境の整備等に要する費用も、補助の対象となりますか。
【回答】○新型コロナウイルス感染症により入院患者と家族等の面会が制限されている中、医療機関において入院患者等が利用できるWi-Fi環境の整備等に要する費用については、本事業の補助対象となります。
○なお、その際、総務省の「Wi-Fi提供者向けセキュリティ対策の手引き(令和2年5月版)」を踏まえるなど、セキュリティ対策に留意してください。


⑤費用が確定していない段階における申請(概算による申請)は可能ですか。
【回答】○本補助金は全て精算交付となるため、申請は全ての事業に要する費用が確定してから行ってください。概算による受付は行わないこととしておりますのでご留意願います。
〇例えば、物品であれば納品が完了し、費用が確定してから申請してください。



■おわりに
当補助金の申請受付期間は、令和3年11月1日(予定)から令和4年1月31日までを予定されています。申請時には、事業に要する費用が確定(物品であれば納品が完了し、費用が確定)してからということになります。交付要件などの詳細を確認し、計画的に進めていくことが必要といえます。

詳細はこちらをどうぞ。


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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

令和4年度診療報酬改定の基本方針、コロナ感染症等に対応可能な医療体制構築へ

9月22日開催された社会保障審議会医療保険部会では、令和4年度診療報酬改定の基本方針の素案について厚労省から提示され、議論されました。同部会ではこの素案に対して概ねで了承する形となりました。今回はその「令和4年度診療報酬改定の基本方針(案)」についてお伝えしていきます。


■診療報酬改定の役割分担
診療報酬改定に向けた論議は、①改定の基本方針を社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定、②その基本方針と改定率を受け、中央社会保険医療協議会で改定内容を議論するという役割分担のもと行われています。医療保険部会・医療部会では、7月末から基本方針策定に向けた論議が始まっており、9月22日の同部会では厚生労働省から【改定に当たっての基本認識】と【改定の基本的視点と具体的方向性】に関する素案が提示されました。


■前回改定の基本方針は?
ちなみ前回令和2年度診療報酬改定時における基本方針はつぎのようなものでした。

【改定に当たっての基本認識】
▶健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた「全世代型社会保障」の実現
▶患者・国民に身近な医療の実現
▶どこに住んでいても適切な医療を安心して受けられる社会の実現、医師等の働き方改革の推進
▶社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和

【改定の基本的視点と具体的方向性】
1.医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進【重点課題】
2.患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
3.医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進
4.効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上

前回の特徴的なところは、重点課題として『医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進』が位置づけられたところかと思われます。それ以前の改定でも、チーム医療の促進や医療従事者の負担軽減などの文言として、医療従事者の働き方改革は基本方針に含まれてきましたが、これまでで最も注目されたのが前回の改定のように感じます。それだけ重要な取組み課題であることを示しているともいえます。


■令和4年度改定、コロナ感染症等に対応可能な医療体制構築へ
そして令和4年度改定の素案として、以下のようが提示されました。

出典:社会保障審議会(医療保険部会)2021日9月22日資料


基本認識と基本的視点の両方に「新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築」が最も上位にくる形となっています。そして前回の改定で重点課題として位置づけられた「医療従事者の負担を軽減し、医師等の働き方改革の推進」が2番手にきています。2024年4月の医師の時間外労働の規制への対応など、医療機関にとって喫緊の課題といえます。


■おわりに
令和4年度も新型コロナウイルス対応と働き方改革、この2つが医療機関にとっては変わらず注目されるテーマとなりそうです。そこに対して診療報酬でどのような対応が図られていくのか、今後の改定の議論を見守っていく必要があるといえます。


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病院を選んだ理由、「交通の便」よりも「医師による紹介」が上位に

厚生労働省が9月13日に2020年の「受療行動調査(概数)の概況」を公表しました。「病院を選んだ理由」「ふだん医療機関にかかる時の情報の入手先」「満足度」などの調査がされており、医療経営の1つの参考になる資料になります。今回はその内容の一部について、ご紹介していきます。

■受療行動調査とは
全国の医療施設を利用する患者について、受療の状況や受けた医療に対する満足度等を調査することにより、患者の医療に対する認識や行動を明らかにし、今後の医療行政の基礎資料を得ることを目的としたもので、3年周期で実施されている調査になります。

調査対象としては、全国の一般病院を利用する患者(外来・入院)で、層化無作為抽出した一般病院を利用する患者となりますので、クリニックの患者は含まれていません。ただし、調査の区分としては、入院と外来分かれており、それぞれ以下の項目が調査されています。

・入院:病院を選んだ理由、入院までの期間、医師から受けた説明の程度、今後の治療・療養の希望、退院の許可が出た場合の自宅療養の見通し、満足度 等

・外来:診察等までの待ち時間、診察時間、来院の目的、初めて医師に診てもらったときの自覚症状、医師から受けた説明の程度、病院を選んだ理由、満足度 等

今回はこの中からいくつかご紹介していきます。

■病院を選んだ理由は「交通の便」よりも「医師による紹介」が上位に
外来、入院別に病院を選んだ理由を調査しています。その調査結果では外来、入院ともに「医師による紹介」が最も高く、外来で38.7%、入院で55.5%、次いで、外来では「交通の便がよい」が27.9%、入院では「専門性が高い医療を提供している」が26.5%となっています。特に入院に関しては、過半数が「医師による紹介」を選択しており、病院で新入院を獲得するためには、地域のかかりつけ医などとの連携が欠かせないことがわかります。
「ふだん医療機関にかかる時の情報の入手先」の項目では、ふだん医療機関にかかる時に「情報を入手している」者は、外来が80.0%、入院が83.0%、「特に情報は入手していない」者は、外来が17.2%、入院が14.7%となっています。これからほとんどの患者が医療機関からの情報を入手していることがわかります。

また「情報を入手している」者について、情報の入手先別にみると、外来、入院ともに「家族・知人・友人の口コミ」が最も高く、外来で71.1%、入院で69.4%、次いで、外来では「医療機関が発信するインターネットの情報」が23.5%、入院では「医療機関の相談窓口」が26.2%となっています。口コミは相変わらず高い割合となっています。さらに外来では「医療機関が発信するインターネットの情報」も高い割合を占めており、医療機関からの情報発信は非常に重要であることがわかります。


■3割は大病院に紹介状なしで受診
つぎに外来患者の最初の受診場所についてです。結果をみると、 「最初から今日来院した病院を受診」が 53.7%と最も多く、次いで 、「最初は他の病院を受診」が 26.6 、「最初は 診療所・クリニック・医院 を受診」が 17.7%となっています。

また病院の種類別にみると、特定機能病院では「最初は他の病院を受診」が 42.3%と最も多く、それ以外の病院では「最初から今日来院した病院を受診」が最も多くなっています。しかし依然として3割の患者は、特定機能病院などの大病院を、紹介状を持たずに受診しており、外来の機能分化の加速する中、患者側の意識改革も必要と考えられます。

■不満項目は入院では食事、外来では待ち時間
最後に満足度調査にも触れたいと思います。項目別の満足度をみると、「満足」していると回答した者の割合が高いのは、外来、入院ともに「医師による診療・治療内容」「医師との対話」「医師以外の病院スタッフの対応」となっており、外来で約6割、入院で約7 割となっています。例年よりも増加傾向にあり、医師やそれ以外の職員の患者への対応が年々よくなってきている傾向がみえます。

一方、「不満」であると回答した者の割合が最も高いのは、外来では「診察までの待ち時間」が23.9%、入院では「食事の内容」が13.6%となっています。



■おわりに
受療行動調査の中には、医療機関の経営に活かせるものがたくさん入っています。このデータは、自院の状況を確認するための1つの材料といえます。このデータをヒントに、自院の課題解決や患者満足度の向上にどのようにつなげていくか、組織内で意見出しやディスカッションしてみても面白いかもしれません。


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1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

医師の働き方改革、暫定特例水準指定の5段階評価案~各医療機関の労務環境等の評価結果を公表~

2024年4月から医師の時間外上限規制、いわゆる『医師の働き方改革』がスタートします。医療機関は年間の上限基準である960時間(A水準)を超えて勤務する医師がいる場合には、事前に「医療機関勤務環境評価センター」の評価を受ける必要があります。8月23日の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」では、その医療機関勤務環境評価センターの評価について議論が行われ、案として5段階評価の内容が示されました。

■暫定特例水準指定までの流れ
2024年4月から医師の時間外上限規制がスタートします。先日成立した「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律(改正医療法)」に、いわゆる「医師の働き方改革」の枠組みが盛り込まれました。

医療機関においては、すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制を適用するとともに、追加的健康確保措置として、「28時間までの連続勤務時間制限」「9時間以上の勤務間インターバル」「代償休息」「面接指導と必要に応じた就業上の措置」などを講じる義務が管理者に課されることになります。


図表:新たな時間外労働の上限規制の原則
出典:「医師の働き方改革の推進に関する検討会」資料

すべての医療機関の勤務医に対して、時間外労働を年間960時間(A水準)以内におさめることを目標としていますが、それが難しい医療機関も当然出てきます。そういった医療機関については、事前に都道府県からB(連携Bも含む)、C水準の指定を受ける必要があります。その指定を受けるための流れは以下のとおりになります。

【1】医療機関で「医師労働時間短縮計画」の作成や「追加的健康確保措置」の体制構築を行う
              ↓
【2】新設される「医療機関勤務環境評価センター」が各医療機関の体制や取り組み状況を評価する
              ↓
【3】都道府県が評価センターの評価結果を参考に「B・連携B・C水準に指定するべきか否か」を決定する


■5段階評価案が示される
8月23日に「医師の働き方改革の推進に関する検討会」が開催されました。検討会では、先ほどの「医療機関勤務環境評価センター」の評価について議論され、評価案が提案されました。

まず大前提として、労働関係法令および医療法に規定された事項を遵守していることが必要です。そのうえで、「医療機関の医師の労働時間短縮の取り組みの評価に関するガイドライン(評価項目と評価基準)」に基づき、『ストラクチャー(労務管理体制)』『プロセス(医師の労働時間短縮に向けた取り組み)』『アウトカム(労務管理体制の構築と労働時間短縮の取り組み実績後の評価)』3つの評価視点(図表)ごとに、「〇」「×」によって評価されます。その評価結果を踏まえて、S・A・B・C・Dの5段階で全体評価(図表)を行うとしています。


図表:3つの評価視点


図表:全体評価の考え方

【5段階評価の概要】
S:他の医療機関の模範となる取り組みが行われ医師の労働時間短縮が着実に進んでいる

A:医師の労働時間短縮に向けた医療機関内の取り組みは十分に行われており医師の労働時間短縮が進んでいる

B:医師の労働時間短縮に向けた医療機関内の取り組みは十分に行われているが、医師の労働時間短縮が進んでいない

C:医師の労働時間短縮に向けた医療機関内の取り組みには改善の必要があり医師労働時間短縮計画案から今後の取り組みの改善が見込まれる

D:医師の労働時間短縮に向けた医療機関内の取り組みには改善の必要があり医師労働時間短縮計画案の見直しが必要である

出典:「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(2021年8月23日)の資料

■D判定病院には訪問評価が必要
2024 年4月からの時間外労働の上限規制適用に向けて、一斉に医療機関勤務環境評価センターによる評価の受審、その結果を踏まえた都道府県によるB・連携B・C 水準の指定を行う必要があります。 2022~2023 年度にまず書面で評価を受け、評価結果がD評価となった医療機関については、 2023 年度に追加で訪問評価を受けることとしています。評価保留やD評価となった場合の訪問評価、都道府県における指定の手続きがあることから、 評価の受審が遅い場合には 、2024年4 月に指定が間に合わない可能性があります。そうした事態を避けるためにも、都道府県の勤務環境改善支援センターなどへの相談や、助言・指導を早い段階から受けることが必要といえます。
また評価結果の有効期間は「原則3年間」とされており、初回指定から3年の間に更新評価を受けることになります。

出典:「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(2021年8月23日)の資料

■おわりに
医療機関勤務環境評価センターによる5段階の評価結果は、公表していく方針とあります。公表の方法などは議論される予定となっていますが、評価結果を明らかにすることにより、各医療機関での勤務環境の改善への取り組みが促進されることが期待されているようです。

この評価結果は、その病院の勤務環境を表すものであり、D評価であればブラックな病院という印象を、一方でS評価であれば健全な職場環境であるという印象を与える可能性もあり、医師や医療従事者などの採用や確保にも影響を与えることも考えられます。

このように医師を始めとする医療機関における勤務環境改善への取組みは、これから加速する「働き手不足」という長期的な経営課題に対する対応策として、取り組まなければならない重要課題といえるでしょう。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

これから始まる外来機能報告制度はクリニック経営に活かせるか

2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が本格化してきています。入院に関してはこれまで同様に地域医療構想や働き方改革を推進するような内容が盛り込まれることが想定されます。また外来に関しては、「外来医療の機能分化」「かかりつけ医機能の推進」といった点が議論の中心になってくるだろうと思われます。その中で新たに始まる制度として、「外来機能報告制度」があります。今回はこの「外来機能報告制度」がクリニック経営にどのような関連があるか、一緒に考えていけたらと思います。


■外来機能報告制度とは
今年(2021年)5月に成立した改正医療法で「外来機能報告制度」が創設されました。この制度は、全国の病院が外来データを都道府県に報告し、そのデータを踏まえて、各地域で【『医療資源を重点的に活用する外来』を地域で基幹的に担う医療機関】(以下、紹介外来患者中心の医療機関)を明確にしていくものです

これにより、外来医療においても機能分化を進め、 『まずは「かかりつけ医」を受診し、そこから「高機能の病院外来」を紹介してもらう』という患者の流れを強化することにより、「病院勤務医の負担軽減」や「外来医療の質向上」などを目指す仕組みにすることが狙いです。




■クリニック経営への影響は
この制度はクリニック経営にとって、ひとつの機会(チャンス)と捉えることができます。この外来機能報告制度で「紹介外来患者中心の医療機関」に選定された病院は、今診療している比較的軽度の患者さんや治療後の患者さんなどの逆紹介(病院からクリニックへ紹介すること)を推進するはずです。つまり病院経営としては、そういった外来患者の受け皿となってくれるクリニックとの連携を積極的におこないたいはずです。ですので、そういった病院との連携を強化することで、外来患者の獲得につながる可能性は大いにあります。

■病院側の逆紹介が進まない理由
ただ実態として、病院からの逆紹介が進まないケースが往々にしてあります。その進まない要因としては、つぎの点が挙げられます。

①患者説明に時間と労力がかかる
②紹介先のクリニックの顔が見えない
③患者側の理解不足

①③については、クリニック側で対策を講じるのは難しいかもしれません。ただし①は、これから本格化する医師の働き方改革の推進などを理由に、病院側での対策も強化されることが想定されます。また③についても、今回の外来報告機能制度をはじめ、紹介状なし外来患者からの定額負担徴収義務の対象拡大や「上手な医療のかかり方」プロジェクトなど、国としてもさまざまな施策を講じてくるはずです。

一方で、②についてはクリニック側からのアプローチが可能です。自院で対応できる診療内容や患者層などを、病院側の医師や地域連携室に情報発信しておくことや、定期的に情報交換をする場を設けるなどさまざまな対策が考えられます。さらにホームページ上でも地域連携につながるような情報を充実させておくことも効果的かと思います。そのような形で顔がみえる連携を実践することが大切といえます。地域連携を重視しているクリニックでは、地域連携室を一部署として設けているところもあります。病院では地域連携室があるのはもはや当たり前ですが、これからはクリニックでも地域連携室があることが当たり前となる時代がくるかもしれません。これからのクリニック経営においては、地域連携はこれまで以上に重要性が増すキーワードになるといえるのではないでしょうか。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

地域医療構想、具体的対応方針の再検証などで各地域の取組み状況を把握

先日のコラムで「第8次医療計画等に関する検討会」の検討体制として、検討会の下に「地域医療構想および医師確保計画に関するワーキンググループ(WG)」「外来機能報告等に関するWG」「在宅医療および医療・介護連携に関するWG」の3つのWGを立ち上げ議論することをご紹介しました。先日7月29日に「地域医療構想および医師確保計画に関するワーキンググループ」の第1回目が開催されましたので、今回はその内容の一部について、ご紹介していきます。


■地域医療構想とは
2025年度には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、今後、急速に医療ニーズが増加していくと予想されています。さらに2040年には団塊の世代ジュニアが65歳以上となりはじめ、生産年齢人口の層が急速に減少していくと予測されています。このような今後の人口減少・高齢化に伴う医療ニーズの質・量の変化や労働力人口の減少を見据え、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するためには、医療機関の機能分化・連携を進めていく必要があります。

こうした観点から、各地域における 2025 年の医療需要と病床の必要量について、医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに推計し、「地域医療構想」として策定されました。各地域では実際の医療提供体制が、この地域医療構想にできるだけ合致させるように、各病院の診療実績や意向などの「病床機能報告」で見える化し、関係者で膝をつき合わせた議論を行っていきます。

直近では、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、その議論が止まってしまった感が否めないですが、今回第8次医療計画の策定に向けて議論が加速されていくことになると思われます。


■医師確保計画とセットで
この地域医療構想を実現させるためには、各地域で議論のうえで病院の統廃合や病床削減、転換などを考えていく必要がありますが、それと同時に考えておかなければならないこととして「偏在する医師を各地域や病院にどのように配置していくか」ということです。病床数といったハード面だけでなく、医師の配置というソフト面も同時に検討していかなければ、地域医療構想の実現は難しいことは想像できます。そこで、今回のWGでは、「地域医療構想」と「医師確保計画」をセットで検討するWGが設置されています。


■今後の方針として
先日の第1回目のWGでは、地域医療構想の実現に向けた検討事項として、つぎの内容が提案され、了承されました。

【1】各地域における検討・取組状況に関するさらなる把握
 ①再検証 対象医療機関における具体的対応方針の再検証
 ②民間医療機関も含めた再検証対象医療機関以外の医療機関における対応方針の策定(策定済の場合、必要に応じた見直しの検討)

【2】地域における協議・取組の促進策に関する検討
 ①新型コロナ対応の経験も踏まえた、地域医療構想調整会議など都道府県による取組の在り方
 ②積極的に検討・取組を進めている医療機関・地域に対する支援の在り方 等

【3】 2025年以降を見据えた枠組みの在り方に関する検討

資料には、新型 コロナウイルス感染症への対応状況に配慮しつつ、2023 年度に各都道府県において第8次医療計画の策定作業が進められることを念頭に置き、2022 年度中を目途に地域医療構想の実現に向けた地域の議論が進められていることが重要となることにも留意とコメントされています。


また医師確保計画に関する検討事項としては以下のとおりです。

【1】各都道府県における計画の策定状況や取組状況に関するさらなる把握

【2】次期医師確保計画の策定(ガイドライン改定)に向けた検討

 ①医師偏在指標や医師多数区域・医師少数区域の在り方
 ②医師の確保の方針や目標医師数の在り方
 ③医師確保に向けた効果的な施策の在り方 等


■おわりに
地域医療構想・医師確保計画の実現に関しては、目の前の差し迫った課題である新型コロナウイルス感染症への対応と同時に、中長期的な課題を検討しなければならないという状況となっています。このような難題に対して、当WGがどのような舵取りをおこなっていくのか、今後の議論の動向に注目です。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。

医師の働き方改革、時短計画が努力義務になってどう変わる?医療機関の対応について

7月1日に「医師の働き方改革の推進に関する検討会」が開催されました。検討会では、医師労働時間短縮計画(以下、時短計画)について、2023年度末までの作成義務だったものが努力義務となった点や、時短計画のひな形などについて議論・検討されています。今回はそのポイントについて、一部ご紹介していきます。

■時短計画、義務から努力義務に変更
2024年4月から、すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制が適用されます。最終的には、いわゆるA水準といわれる原則、年間960時間以下ですべての勤務医に働いていただくことを目指していますが、地域医療や救急医療の確保、医師の偏在などの点からA水準を超える水準での働き方(B、C水準)も当面認められています。

B、C水準の適用を受けるためには、「時短計画を作成し、都道府県に提出し、第三者評価を受ける」必要があります。つまり、2024年度からB、C水準の適用を受けためには、2023年度末までに時短計画を作成し評価を受け、都道府県より指定されなければなりません。

そのため、「時間外労働が960時間超となる勤務医がいる医療機関」について2023年度末までの作成を「義務づける」方向で検討が進められてきました。しかし法案作成段階で、「時間外労働が960時間超となる勤務医がいる医療機関すべてに義務化することは法技術的に困難である」と判断され、時短計画は2023年度末までの「努力義務」に変更されました。

■「努力義務」への変更による影響は?
この変更によるどのような影響があるでしょうか。努力義務になったことで医療機関としては、少しゆったり構えられるかというとそういうわけでもなさそうです。B、C水準の指定を受けるためには、2023年末までに第三者評価を受ける必要があることは変わりありませんし、そのために時短計画の作成が必要であることももちろん変わりはありません。

また2023年度末までに時間外を960時間以下におさえる取組みをしている医療機関においても、目論見通りに進めばよいのですが、その通りに進まなかった場合、慌てて時短計画を作成し評価を受けるというのは、現実的ではありません。あらゆる事態を想定すると、変更前と同様に、早めに時短計画の作成を進めておくことが安心といえます。

今回、その時短計画のひな型/作成例についてもあらためて公開されました。「2023年度末までの計画」と「2024年度以降の計画」の2通りの事例が以下のように公開されています。



■勤務時間の把握をどう調査するか?
時短計画を作成するにしても、まずは現状の勤務医がどのくらい時間外などを行っているか、把握することが重要となってきます。今回の検討会では、その調査方法についても公開されていますので、ポイントだけシェアいたします。

・調査期間:祝日等がない標準的な1 週間
1ヶ月、半年とある程度の期間で医師の勤務実態を把握することが望ましいが、医師への負担、分析にかかる労力等を考えると非現実的である。

・調査項目


詳細については、「医師の勤務実態把握マニュアル」が公開されていますので、一度ご確認いただくことをおすすめします。


■おわりに
医師の働き方改革については、医療機関における自院での努力ももちろん必要ですが、それだけでなく、地域医療構想や医師の偏在対策などの影響も多分にあると想定します。さらには、医療機関のかかり方における国民の意識変革など、あらゆるものが一体となり実現できるものといえるでしょう。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。