受診不安約70%の中での医療機関の経営を考える

日本医師会は7日に、医療に対する意識調査の結果を公表しました。その結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響で「医療機関の受診が不安」「やや不安」と答えた人が合計で69.3%に上ったそうです。

この結果が示すように、患者数はコロナ前よりも激減している医病院やクリニックがほとんどです。それに伴い、医療機関の経営も厳しさを増しています。

1日も早く、この心理的な不安からくる「受診控え」が解消され、患者数が戻ってきてほしいと願う医療機関の経営者は多いと思います。

ではこの「受診控え」が解消されれば、患者数は以前と同じ水準まで戻ってくるでしょうか?

個人的な見解としては、「受診控え」が解消されても、「医療機関の努力なし」ではコロナ前の水準まで戻すことは難しいと考えています。


■セルフメディケーション意識の向上

セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」です。

手洗い・うがい・消毒がこんなに定着したことは、これまでにあったでしょうか。インフルエンザの時期でさえ、ここまでやっていなかった人がほとんどではないでしょうか。僕はその1人です。

我が家でも、消毒液がルーティンのように設置されています。子どもに触る前は、それで消毒してからでないと、触らせてもえません…。

いったん定着したこのセルフメディケーションの意識は今後も根強く残っていくと考えられます。


■出勤などによる人との接触機会の減少

このコロナの影響で働き方改革が加速しました。特にリモートワークが当たり前になりました。それにより会社通勤がなくなり、朝の電車の混雑状況もだいぶ緩和されています。最近は東京の人口動向では、流入よりも流出の方が多いそうですね。

これによりコロナに限らずいろいろな感染症の感染要因の1つである人との物理的な接触機会が減少することになります。つまりは、風邪などにかかる確率はグッと下がるのではないでしょうか。


これらにより一般内科などのクリニックでは特に、患者数に影響がでてくることは容易に想定ができます。


■これまでが過剰医療だった?

一方でこんな見方もあります。これまでの医療提供が過剰であったのではないかというものです。

日本の医療はフリーアクセス制で、誰でも気軽にリーズナブルに医療提供を受けることができます。これは日本が誇る素晴らしい制度である一方で、医療機関への受診の敷居が低くなっているのではないかと考えられます。

すると、どういうことが起きるか。

気軽いけがでも風邪でも大病院に行ってしまうわけです。大病院では1日の外来患者数が5,000人などというすごいところが出てきてしまい、医療従事者への負担が大きくなってしまうのです。

日本の医療資源も無限ではありません。限られた医療資源の中で、医療が必要になったときに、適切に医療サービスを届けられるようにするためには、国民の受診行動を変える必要があったのかもしれません。

今回のコロナにより受診の敷居が高くなったという側面があるのかもしれません。ある意味、これは効率的な医療提供という面では、国の医療制度改革で求めていることともいえます。


■現状を前提とした医業経営を

このように国民の医療機関への受診行動は、コロナ前後で大きく変わったまま維持されるという見方をしておいた方が、よりベターだと個人的には考えます。

ですので、医療機関としては、現在の経営環境を前提とした中でも経営を成り立たせる準備が必要と言えるでしょう。

厳しい環境下ではありますが、コロナにより変化しなければならない状況をチャンスと捉えていく、ポイジティブさが必要かもしれません。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。