2021.03.31

働き方改革、医療機関にとって好機と捉えよ

働き方改革を推進するために、時間外労働の上限規制、年次有給休暇取得、同一労働同一賃金などに関する法整備が進められてきました。そして2024年4月より、医師に対しても時間外労働の上限規制が医師にも適用されることになります。今回はその医師の時間外労働の上限規制について確認していきましょう。

そもそもなぜ働き方改革が必要なのでしょうか?

それは主に日本の人口構造の変化が要因として挙げられます。これまでは高齢者の急増が課題とされてきましたが、2025年以降はその増加幅は小さくなることが推計されています。その一方で推計されているのが、清算年齢人口の減少です。2040年に向けて急激に減少していくことが予測されています。

労働力人口が少なくなる中で社会を維持していくためには、短時間であれば勤務できる女性や高齢者などの活躍が不可欠となります。そのためには、「正社員の長時間かつ硬直的な労働時間」「非正規の低賃金と不安定な雇用」などの制約をなくしていこうというのが働き方改革の背景にあります。

これまでは正社員の長時間労働が前提であり、極端にいうと長時間労働できない場合は労働市場から排除といった働き方が中心でした。しかしこれは人が無尽蔵に供給される「人口増加社会」だからこそ、マッチした働き方だったのです。

これからは労働資源が限られている「人口減少社会」に対応した働き方が求められます。つまりそれは、一人一人の状況に応じた多様な働き方で労働力を最大限に活かせる働き方に対応できるように、雇用側もシフトしていく必要があります。

ですので、働き方改革はただ法律を守らなければならないから対応するものではなく、時代の変化への対応策として講じなければならない経営課題といえるのではないでしょうか。

医師の時間外労働上限規制とは

さて、話は医療機関に話を戻しますが、2024年4月から医師に対しても時間外労働の上限が適用されます。新型コロナウイルス感染の影響で、適用時期の延期などの噂もありましたが、延期はなく予定通り適用する運びとなりそうです。それだけ高いプライオリティに位置づけされている問題ともいえます。

時間外労働の上限規制の一般則としては、原則は「月45時間・年360時間」となります。ただし36協定を締結すれば、年6ヶ月までは「時間外労働 年720時間以内」「休日労働と合わせて、月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内」を上限に、原則を超える時間外労働を設定することができます。

しかし医師という職業柄、一般則の範囲では対応は難しいということで、今回の上限規制では次の3つの水準が予定されています。

A水準:診療従事勤務医に2024年度以降適用される水準

B水準:地域医療確保暫定特例水準

C水準:集中的技能向上水準


A水準は「年960時間・月100時間未満(例外あり)」(いずれも休日労働含む)であり、月80時間の一般則に近い働き方になります。厚労省の調査では、約6割の医師がA水準に該当すると見込まれています。

すべての医師にA水準で働いてもらい、かつ医療提供体制が維持できればいいのですが、なかなかそうはいきません。2024年4月の段階では、それでは1万人の医師が足りないといわれています。そこで特例水準として用意されたのがB水準です。

B水準は地域医療を確保するために時間外労働を、A水準を超えてせざる得ない医師に適用される水準になります。上限は「年1860時間・月100時間未満(例外あり)」(いずれも休日労働含む)であり、A水準よりかなり高い水準となります。そのため、追加的健康確保措置として、「連続勤務時間制限28時間・勤務時間インターバル9時間・代償休息」が義務付けられています。またB水準には「連携B」という水準もあり、これは医師の派遣を通じて、地域の医療提供体制を確保するために必要な役割を担う医師に適用されます。
a病院の勤務時間はA水準ですが、b病院での副業・兼業の業務を通算するとA水準を超えてしまう場合に適用されます。

続いて、C水準は名前のとおり、初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や高度技能獲得を目指す医師など、医療という高度かつ専門性の高い技術を習得するためにA水準を超えて時間外労働する医師に適用されるものです。上限は「年1860時間・月100時間未満(例外あり)」(いずれも休日労働含む)とB水準と同じになります。

これら3つの水準が2024年4月から適用され、2035年度末を目標にB水準をなくし、すべての医療機関がAもしくはC水準におさまる働き方を目指しています。



2021年度中に医師時短計画の策定を

2024年4月からBもしくはC水準を適用させるためには、都道府県からの指定を受ける必要があります。そのためには、可能であれば2021年度中に「医師労働時間短縮計画」を策定し、それをもとに評価機能による評価も受けねばなりません。評価をクリアし、都道府県への指定申請、そして労使間で36協定を締結して、やっとBもしくはC水準を適用できる流れとなります。

ですので、A水準を超える医師がいる医療機関では、2021年度より医師労働時間短縮計画の策定を検討していかなければなりません。その前提として、現状の医師の時間外労働をきちんと把握しておく必要があるのは言うまでもありません。

まとめ

医療機関は、人なくしてサービスを提供することはできません。高齢者人口の増加が落ち着き、働き手が急激に減少する中で医業経営を安定させていくためには、患者からだけでなく、働き手からも選ばれる医療機関でなければなりません。働き方改革はそういった時代の変化への対応策といえます。ある意味、医療機関にとってはチャンスです。この機会を好機と捉え、前向きに取り組むことが必要といえるでしょう。


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◆筆者プロフィール
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森田仁計(もりた よしかず)

医療総研株式会社 認定医業経営コンサルタント
1982 年、埼玉県生まれ。法政大学工学部卒業後、株式会社三菱化学ビーシーエル(現LSI メディエンス)に入社し、現場営業から開発・企画業務まで携わる。2015 年、医療総研株式会社に入社し、認定登録医業経営コンサルタントとして、医療機関の経営改善や人事制度構築などの組織運営改善業務に従事。著書に『医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本』(秀和システム)、『医業経営コンサルティングマニュアルⅠ:経営診断業務編①、Ⅱ:経営診断業務編②、Ⅲ:経営戦略支援業務編』(共著、日本医業経営コンサルタント協会)などがある。