令和8年度診療報酬改定 中小病院経営への影響
1. 全体のポイント
令和8年度改定は、「物価・賃金高騰への対応」、「2040年を見据えた医療提供体制の構築」、「地域包括医療」へのシフトが強く促されています。赤字経営かつ人手不足の現状では、従来の急性期機能を維持するよりも、新設された評価体系を戦略的に選択することが生き残りの鍵と考えられます。
2. 想定される影響
①収益の二極化
救急搬送や手術の実績が少ない病院は、従来の急性期入院料の維持が困難になり、減収リスクが生じます。一方で、こうした病院が地域包括医療病棟等への転換に成功すれば、加算やベースアップ評価料により増収の可能性が高まります。
②人件費負担の増加と補填
「入院ベースアップ評価料」等の新設により賃上げ原資は確保されますが、他産業との人材獲得競争に勝つための持ち出しが発生するリスクがあります。
③多職種配置による運営効率化
看護師不足を補う形で、リハビリ職や管理栄養士等の他職種を配置することへの評価が新設され、人員不足への柔軟な対応が可能になります。
3. 影響を及ぼす理由・要因
① 従来の「急性期一般入院基本料」の厳格化
従来の「急性期1」などにおいて、救急搬送受入れや全身麻酔手術の実績基準が導入・強化されます。実績が伴わない場合、7対1看護配置を維持していても高い入院料を算定できなくなる(事実上のダウンサイジングや区分変更)可能性があります。
② 新設の「機能別急性期評価(仮称:病院A・B)」
拠点的な急性期機能を担う病院(A)と、地域密着型で高齢者救急等に対応する病院(B)といった、病院機能に応じた評価体系の細分化が進められています。
③ 地域包括ケア病床の役割強化
急性期と在宅の中間的な役割が強化されます。特に、急性期病棟からの早期受け入れや、地域の施設等からの後方支援機能がより高く評価されるようになります。
④ 地域包括医療病棟の拡充
高齢者の救急疾患(内科系等)を幅広く受け入れる機能が適切に評価されるよう体系が見直されます。手術実績が少ない病院にとって、急性期一般病棟からの有力な転換先となります。
⑤ 看護多職種協働加算の新設
看護職員の負担軽減とADL維持のため、リハビリ職や管理栄養士等が病棟業務を協働して行う体制への新たな評価が導入されます。これは看護師不足に悩む病院にとって、人員構成を柔軟化する助けとなります。
⑥ 入院ベースアップ評価料の見直し
幅広い医療従事者の賃上げを実現するため、実効性が確保される仕組みへと見直されます。令和8年度に+3.2%のベースアップを支援する措置が講じられます。
4. 影響のシミュレーション
①「従来の急性期維持シナリオ」
入院基本料:実績基準を満たせず、減算または下位区分へ転落のリスクあり
加算収益:手術等の技術料に依存し、人口減に伴い収益も減少
人件費:看護師確保に苦戦し、派遣費用等が経営を圧迫
収支:収益悪化の恐れ
②「地域包括医療・多職種協働シフト」
入院基本料:新基準に適合し、安定的な高い単価を確保
加算収益:多職種配置や高齢者救急の加算により積み上げ
人件費:加算を活用して他職種を雇用し、看護配置を柔軟化
収支:経営の安定化・黒字化の可能性
5. 対応策
・病床機能の転換
「急性期一般」から、高齢者救急の受け皿となる「地域包括医療病棟」への転換、または地域包括ケア病棟とのケアミックスが選択肢となります。
・多職種チームの構築
看護師の採用が難しい場合は、リハビリ職や管理栄養士、薬剤師を病棟に厚く配置し、「看護多職種協働加算」等の新規評価を確実に取得することが代替案となります。
・医療DXの導入
見守り機器やICT活用による看護配置基準の柔軟化(ICT活用による配置緩和)を導入が、夜勤等の負担軽減と人員不足への対策となります。
・ベースアップ評価料の活用
賃上げ原資を確実に給与へ反映させ、職員の離職防止と人材確保に繋げることが求められます。
6. まとめ
将来的な人口減少と人手不足が確実な状況下で、民間の中小病院が従来の「手術中心の急性期」モデルを維持することの難易度は一層、高まっています。令和8年度改定は、こうした病院に対して「多職種による高齢者救急と地域包括医療」への転換を、報酬上のインセンティブ(地域包括医療病棟の拡充や多職種協働の評価)をもって強く促しています。この改定を好機と捉え、機能見直しを実行することが、収支改善と病院存続への解と考えられます。
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